沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,励起子内の粒子の内部軌道(空間分布)を示す画像の撮影に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
励起子は,半導体が光子を吸収することにより,負の電荷を帯びた電子が低いエネルギーレベルから高いエネルギーレベルに飛び移ることで生成される。このとき,低いエネルギーレベルには正の電荷を帯びた穴である「正孔」ができる。こうして反対の電荷を帯びた電子と正孔が互いに引き付けられて周回を始め,励起子が生まれる。
励起子は半導体において非常に重要な役割を果たしているが,これまではその検出や測定の方法が限られていた。その理由の1つは,励起子の脆さにある。励起子は,比較的小さなエネルギーでも自由電子と正孔に分解されてしまう。さらに,物質によって励起子は,生成されてから数兆分の1秒程度で,励起された電子が正孔へと「落ちて」消滅してしまう。
励起子が最初に発見されたのは約90年前だが,ごく最近まで,励起子の光学的特徴(例えば,励起子が消滅したときに放出される光)しか確認することができず,励起子の運動量などの性質や,電子と正孔がどのようにして互いに周回し合うかなどは,理論的にしか説明できなかった。
研究グループはまず,2次元半導体にレーザーパルス光を照射して励起子を生成した。2次元半導体は近年発見された物質で,原子数個分の厚さで,より強固な励起子を含む。
励起子を生成後,超高エネルギーの光子をもつ極端紫外光のレーザービームで励起子を分解し,電子を材料から取り出して電子顕微鏡内の真空空間に放出させた。その後,電子顕微鏡で電子が物質から飛び出すときの角度とエネルギーを測定し,この測定値を基に,電子が励起子内の正孔に結合したときの初期運動量を割り出した。
この際,励起子を加熱してしまわないように,低温かつ低強度で細心の注意を払って測定を行なう必用があったが,研究グループは最終的に,正孔の周囲で電子が存在する確率が高い場所を示す,励起子の波動関数を測定することに成功した。
今回の研究結果は,この分野で重要な進歩となるもの。粒子がより大きな複合粒子を形成する際の内部軌道を可視化できるようになれば,これまでにない方法で複合粒子を理解し,測定し,最終的には制御することが可能となるかもしれない。研究グループはこれにより,物質の新しい量子状態や,その概念に基づく技術を生み出すことができるかもしれないとしている。