パナソニックは,一般的なシリコン(Si)の断熱性能を示す物性値限界を大きく上回るフォノニック結晶構造をSiウエハー上に量産適用可能な作製方法で形成し,デバイス性能を飛躍的に向上させる技術を開発した(ニュースリリース)。
熱制御技術の研究において,材料にナノメートルオーダーの周期構造(フォノニック結晶構造)を組み込み,熱輸送の担体であるフォノンの伝搬を人工的に阻害することで,従来の物性値限界を上回る断熱性能を実現できることが明らかになってきた。
しかし,フォノニック結晶構造の寸法制御性や作製スループットの限界により,フォノンの伝搬制御性を最大限に引き出しきれず,実用的な電子デバイスへの応用は困難だった。
フォノニック結晶構造を形成するには,電子線描画装置を用いた最小寸法100nm前後のナノパターンニングプロセスではスループットが低く,サイズもフォノンの熱波動制御には不十分で,更に微細なナノ加工技術が必要になる。
そこで同社は,プロセスコストの増加が小さく,量産適用可能な技術として,ブロック共重合体の自己組織化プロセスを高度に応用したナノパターンニングプロセスを採用した。
これにより,サイズを問わず大口径ウエハー全面を2種類の有機物によるシリンダー構造で被覆させる技術を開発した。さらに,米シカゴ大学とシリンダー構造の直径を約26nm,シリンダーの整列周期を約38nmにまで微細化することに成功し,フォノンの熱波動制御を最大化することを実現した。
積層構造を有するSi(100nm)/SiO2(2000nm)/Si基板に自己組織化構造を形成し,遠赤外線センサーの支持脚に転写することに成功。フォノニック結晶を搭載しないSi遠赤外線センサーの支持脚の熱伝導率31.2W/mKに対し,フォノニック結晶を搭載した構造では熱伝導率を3.6W/mKにまで低減した。
この低減割合は,従来の断熱材料で用いられている多孔質モデルを大幅に上回り,フォノン熱波動制御現象が発現していることを見出した。さらに,同じ量の遠赤外線を照射した際の受光部での温度分布をシミュレーションで可視化すると,熱伝導率の差異による温度上昇量に大きな差異を認めた。
パルスレーザー加熱による熱起電力を評価した結果,フォノニック結晶を搭載した遠赤外線センサーは,通常の遠赤外線センサーと比べて,熱起電力が約10倍にまで増加しており,フォノニック結晶による感度向上が明らかとなった。
同社は今後,この技術を新たなセンシングソリューションや,小型・高密度デバイスのサーマルソリューションへ適用することを目指すとしている。