矢野経済研究所は,3Dプリンター世界市場の調査を実施し,需要分野別の動向,参入企業動向,将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,2020年の3Dプリンター世界市場規模(メーカー出荷数量ベース)は,前年比99.7%の36.4万台と,新型コロナウイルス感染症の影響を受け,出荷台数は減少した。
2020年はサプライチェーンの分断や医療物資などの不足で3Dプリンターが注目され,世界中の多くの3Dプリンターメーカー等がマスクや防護メガネなどを無償で提供するなどの取組みを行なったが,想定通りの出荷台数には及ばなかったようだという。
世界では,量産につながる最終製品に向けた動きが活発化していたため,産業用の3Dプリンター装置の導入が加速していた。しかし,産業用の装置が高額であることなどを理由に,コロナ禍において停止になった案件もあり,出荷台数は伸び悩んでいる。3Dプリンターへの投資は,新型コロナウイルス感染症の流行を契機に財務状況が厳しくなったユーザー企業も多いことなどから,2023年頃まで状況は厳しくなると予測する。
一方,新型コロナウイルス感染症の流行は,3Dプリンターの特長が改めて評価される契機ともなった。特にサプライチェーンの分断で,利用する場所の近くで製造できる点に大きな魅力を感じたユーザー企業等は多い。Withコロナにおいても,輸送コストの削減や現地の需要に基づいた製造を行なうなどの観点から,データを共有し,現場の近くで生産する動きが続くと予測する。
また,これまで不足部品の代替品を作ることでしか3Dプリンターを活用してこなかった企業等においては,最終部品の短期的な開発・生産に貢献するものとして,3Dプリンターを新たな目で見るようになったという。
現在,3Dプリンター世界市場では,欧米・中国を中心に航空宇宙や自動車,金型,医療,宝飾などの業種・分野で実用化,量産につながる最終製品に向けた動きが活発化している。特に自動車分野では,軽量化や性能向上,燃費向上などを目的として,3Dプリンターでの製作需要が増えることが期待されているとする。
最近は後加工(サポート材の除去を含む)を省力化できる製品やサービスなども増加基調にあり,以前よりも3Dプリンターを利用しやすい環境が整いつつあることが,量産等に向けた動きを後押ししている。
また,技術的にも,これまで3Dプリンターの課題の一つとされてきた造形速度の短縮化をはじめ,メーカー各社が様々な工夫を凝らしている。今後,造形物の大型化,材料の多品種化,造形物の品質保証の確立などが進めば,3Dプリンター世界市場の成長スピードは加速していくとする。
こうしたなか,3Dプリンター世界市場規模(メーカー出荷数量ベース)の2017年から2023年までの年平均成長率(CAGR)は5.4%で推移し,2023年には37万台になると予測している。