国立天文台(NAOJ)と京都産業大学は,2016年3月に地球に接近したパンスターズ彗星を,すばる望遠鏡を用いて観測し,地上からの観測としては初めて,彗星の本体である核の表層成分を調べることに成功した(ニュースリリース)。
この彗星は,周期5.3年の短周期彗星と呼ばれるグループに属している。2016年3月22.6日(世界時)には,地球・月間の約9倍の距離を通過し,過去の彗星の中でもかなり地球に近づいた彗星の一つ。また,彗星活動が低いことから,彗星核からガスやダストを放出して次第に枯渇しつつある,進化した彗星である可能性が示唆されていた。
今回,研究グループは,この彗星が地球に最接近する約30時間前に,すばる望遠鏡の中間赤外線観測装置COMICSを用いた撮像と分光観測を行なった。その結果,得られたシグナルのほとんどが彗星核に由来する熱輻射であることが判明した。
彗星は,太陽に近づき彗星核の表面が温められることで氷成分が昇華する。氷成分が昇華することで,ガスと共にダストも宇宙空間に放出され,彗星の特長である「コマ」や「尾」を形成する。そのため,彗星の理解には本体である核の理解が本質的に重要だが,彗星核から放出されるガスやダストによって彗星核自身は隠されてしまうため,彗星核を地上から直接観測することは難しい。
しかし今回,彗星の活動度が低く,あまりダストが放出されていなかったことに加えて,地球に大接近するまれな機会を捉え,すばる望遠鏡による高解像度の観測を行なったことが活かされた。
得られたデータを分析した結果,彗星核の直径は約800mで,表面温度は約350K(摂氏77度)と判明した。また,8-13μm付近の中間赤外線スペクトルには,含水ケイ酸塩鉱物が示す特徴が見られた。水が氷から直接昇華してしまう彗星では含水鉱物の存在はこれまで明確に確認されていなかった。彗星で含水ケイ酸塩鉱物の特徴が見つかったのは,初めてのことだという。
さらに,この含水ケイ酸塩鉱物は,過去に約600K(摂氏327度)程度まで加熱された履歴を持つ可能性が明らかになった。現在のパンスターズ彗星の軌道では,約400K(摂氏127度)よりも高い表面温度にはなりえず,過去にはより太陽に近づく軌道にあった可能性があるという。また,この彗星のスペクトルからは高温環境下で形成される複雑な有機物由来の複数の特徴も検出された。
今回,彗星にも含水ケイ酸塩が存在する可能性があることが分かったのは,彗星の進化について重要な結果。今後観測が進むことで,彗星の進化に加えて小惑星との違いと共通点をより詳しく知ることができるとしている。