アジアモンスーンPFS1コンソーシアムは3月26日,アジアモンスーンモデル植物工場システムの開発プロジェクトを終え,その成果を記者発表した(ニュースリリース)。
同コンソーシアムは,三菱ケミカルを代表機関とし,3つの公的研究機関(農業・食品産業技術総合研究機構,国際農林水産業研究センター,産業技術総合研究所),4つの大学(名古屋大学,大阪大学,東京大学,北海道大学),6つの民間企業(三菱ケミカル,パナソニック,富士フイルム,シチズン電子,タキイ種苗,堀場製作所)からなり,2016年12月より,生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN)のプロジェクト「農林水産・食品産業の情報化と生産システムの革新を推進するアジアモンスーンモデル植物工場システムの開発」に取り組んできた。
このプロジェクトは,日本の技術により,高温多湿地域においても,本州など日本国内の温帯地域と同様に,安全・安心で美味しい日本品種野菜を安定的かつ低価格で生産する技術の開発を目指したもの。具体的には,従来東南アジアの高温多湿な条件では育成が難しかったトマトやイチゴを,日本同様の品質で栽培できる植物工場とその周辺技術の開発を行ない,以下の目標を達成したとして,今月末に終了する。
今回開発したのは,ハウス内で太陽光を利用した作物の育成を行なう太陽光型植物工場。これまではオランダ製のものが市場を占めていたが,価格が1haあたり6~8億円と高価で,かつ欧州の寒冷な地域での使用を前提としたものであるため,高温多湿な東南アジアでの使用には適していないという。
そこで今回,1haあたり2億円以下の価格と高温多湿環境下で使用できる太陽光型植物工場の実現を目指した。ハウスの構造などを見直してコストを目標まで削減することに成功するとともに,多岐の項目にわたるセンシングデータを,クラウドの高温多湿向け栽培マニュアルを通じて,空調,養液の制御等にフィードバックすることで,特にトマトの栽培において,日本国内で栽培するのと同等の品質と収量を確保した。
光学技術の面からは,農業ハウス向け熱線遮断フィルムを開発し,ハウス内温度を従来の被覆フィルム比で2~3℃抑制可能であることを実証し,空調コストの削減した。これは富士フイルムの開発した銀ナノ粒子と,三菱ケミカルの熱線を避けつつ可視光を通すフイルム技術によるものだという。
また,トマトの栽培には,蛍光灯を用いた育苗棚で栽培した苗を当初用いていたが,高温に耐えきれず枯れてしまったという。そこでシチズン電子のCOB LEDを用いた光育苗装置により,高温多湿条件下でもトマトの安定生産をおこなえる高品質な苗(大苗)を供給する育苗システムを開発するとともに,大苗の最適栽培条件も確立した。これは既に実を付けられるほどに苗を成長させるもので,高温下での栽培と収穫が可能となった。
植物工場には赤と青のLEDが用いられることが多いが,この場合,植物が光を吸収して暗褐色になり,生育状況が分かりにくいという欠点がある。そこでこの光育苗装置で使用するCOB LEDは緑を加えて視認性を向上し,生育状況を分かりやすくした。さらに,LED素子の高密度実装により~380Wのハイパワーも実現している。こうしたLED照明は育苗装置にとどまらず,ハウス内での補助照明としても利用されるという。
コンソーシアムは今後,国際農林水産業研究センター 熱帯・島嶼研究拠点の研究設備を継続使用する新しいコンソーシアムを形成し,熱帯・亜熱帯地域での栽培を前提に,トマトの環境制御最適化(裂果等品質安定化),イチゴ栽培技術最適化(LED補光による収量UP)に取り組み,アジアモンスーンモデル植物工場システムのさらなる発展を目指すとしている。