筑波大学は,光が引き起こす励起子の超高速なダイナミクスを高い時間分解能で観測することに成功した(ニュースリリース)。
固体物質の内部では,負の電荷を持った電子と正の電荷を持った正孔の二種類の荷電粒子の振る舞いによって,電気伝導性や光学特性など様々な物質の性質が決まる。
また,物質中に生じた電子と正孔が互いの引力によって結びついて束縛された状態である励起子は,物質の性質に大きな影響を与えることがある。これまで,強い光によって固体物質内の電子や正孔の運動を駆動し,物質の性質を制御しようという試みが盛んに研究されてきた。
このような取り組みは,将来の光エレクトロニクス技術の基盤となるものだが,電子と正孔の束縛状態である励起子が,強い光の下でどのようなダイナミクスを示し,その背後にはどのような物理的機構があるのかということについては未解明だった。
今回研究グループは,時間分解ポンプ・プローブ分光法をフッ化マグネシウム(MgF2)の単結晶に適用し,固体内に引き起こされる超高速な励起子のダイナミクスの実時間観察を行なった。
ポンプ・プローブ分光法は,ポンプ光(強い光)のパルスによって励起子のダイナミクスを駆動し,そのダイナミクスを,プローブ光(弱い光)のパルスによって観測することにより,励起子の挙動をアト秒の時間分解能で観察することができる。
実験から,強い光によって駆動された励起子のダイナミクスには,励起子ダイナミクスを駆動する光の周期よりも⻑い時間スケールで起きる遅い現象と,光の周期よりも短い時間スケールで起きる速い現象の二つの時間スケールの現象が共存していることが分かった。
これら二つの時間スケールの現象の物理的な発生機構を明らかにするために,量子力学に基づく数値シミュレーションを行なった。励起子は,互いに逆符号の電荷を持つ電子と正孔の束縛状態であるため,電子と原子核が結合した原子のようなものとして理解されることがあるが,数値シミュレーションの結果,この「原子的性質」が遅い時間スケールの現象を支配していることが明らかとなった。
また対照的に,電子と正孔が空間内を自由に動き回る「固体的性質」が速い時間スケールの現象を支配していることが,シミュレーションの結果から明らかとなり,励起子の超高速なダイナミクスにおいて,「原子的な性質」と「固体的な性質」が共存していることが分かったという。
この結果は,励起子を光制御するための新しい方法論の可能性を示唆するものであり,物質の様々な性質を超高速に制御する技術が期待されるとしている。