理研ら,ナノ半導体界面でエネルギー共鳴現象を発見

理化学研究所(理研),筑波大学,東京大学,慶應義塾大学は,1次元と2次元という異なる次元性を持ったナノ半導体間の界面において,バンドエネルギー共鳴によって励起子移動が増強する現象を発見した(ニュースリリース)。

代表的な1次元半導体である単層カーボンナノチューブ(CNT)は,炭素原子が六角形の格子状に並んだ原子一層の膜(グラフェン)を直径1~3nm程度の筒状に丸めた構造を持つ。その巻き方はチューブの円周方向のベクトルを定義する二つの整数(n,m)により決まり,この炭素原子の並び方(幾何構造)を特定する(n,m)を「カイラリティ」と呼ぶ。

また,(n,m)の値によりCNTのバンドエネルギーは大きく変わるため,発光測定を利用することで原子配列を厳密に同定できる。光学特性については,1次元性を反映して直線偏光を吸収することが知られている。

一方,遷移金属ダイカルコゲナイドの一種であるセレン化タングステンは,タングステンとセレンの原子から成る層状の2次元半導体。各層の厚さは約0.7nmで,層間はファンデルワールス力によって結合している。

CNTのバンドエネルギーが幾何構造によって変わるように,この物質のバンドエネルギーも層数に依存するが,その変化量はわずか。また,2次元性の物質であるため面内のどの方向の直線偏光でも等しく光を吸収する。

異なる次元性を持つこれら二つの低次元半導体を接合させたヘテロ構造では,CNTの大きなバンドエネルギー変調を利用することで,原子数層程度の極薄半導体構造でのバンドエンジニアリングが実現する可能性がある。

エネルギーバンドの特性を制御することで新たな機能や特性を引き出すバンドエンジニアリングは,高電子移動度トランジスタや量子井戸構造をはじめ,優れた機能を有するデバイス構造の実現に利用されており,低次元半導体に適用することで新たな物性や革新的な機能の発現が見込める。

研究グループは,理研で独自に開発したアントラセン媒介転写を用いて,CNTとセレン化タングステンを組み合わせた異次元ヘテロ構造の作製に成功し,光吸収と発光特性を調査した。さまざまな幾何構造を持つ単層CNTを用いることで,系統的にバンドエネルギーを変化させたところ,エネルギー共鳴によって励起子移動の増強が起きることを明らかにした。

これは,バンドエンジニアリングを原子層デバイスにも適用できる可能性を示すもの。研究グループは,原子精度ナノ物質の異次元ヘテロ構造ではさらに新たな量子効果や革新的な機能が発現する可能性があるほか,さまざまなナノ物質の組み合わせによるヘテロ構造への展開も考えられるとしている。

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