東北大学は,カラーデジタル写真から人工知能技術を用いて紫外線写真を予測し生成する手法を開発した(ニュースリリース)。
紫外線がメラニンに吸収され色素沈着が強調される性質を利用し,肌解析用の光源や紫外線センサーを有する計測装置により撮影された紫外線写真から潜在的な色素斑を含めて色素沈着を計測することが一般的に行なわれているが,こうした装置は一般的な皮膚科診療現場では設置されていない。
そこで研究では,人工知能技術である条件付き敵対的生成ネットワークの枠組みのもと,多層の人工ニューロンから構成される深層学習モデルを学習することで,通常のデジタルカメラで撮影されたカラー写真から紫外線写真を予測し,生成する手法を開発した。
この敵対的生成ネットワークは,例えば画像データを対象とした場合,画像を生成する深層学習モデルと生成された画像が本物であるかを判別する深層学習モデルがお互いに競争しながら学習し精度向上することで,自然な合成画像の生成を可能とする技術。
研究では,その中でもカラー写真を入力画像として条件付きで合成画像の生成を行なう条件付き敵対的生成ネットワークを使用した。また,深層学習モデルの学習データとして,150名の被験者のカラー写真と紫外線写真を使用した。
この手法では,カラー写真では捉えることが困難な初期の色素斑も強調された。頬の部分について色素沈着の自動検出を行なった結果,合成紫外線写真と実際の紫外線写真で同様の色素沈着パターンが検出された。
さらに,学習データに写真が含まれていない24名の被験者について,合成紫外線写真と実際の紫外線写真で計測された色素沈着の割合の評価を行なった。その結果,両者は相関係数0.92と強く相関しており,色素沈着の自動検出を通して肌ダメージの経時的変化を客観的に評価することが可能であることが分かった。
さらに,異なる環境下においてスマートフォンにより撮影されたカラー写真についても合成紫外線写真を生成し,評価を行なった結果,元のカ
ラー写真からは捉えることが困難な色素沈着の識別が可能となることが分かった。
これにより,専用の計測装置がない環境においても通常のデジタルカメラにより撮影されたカラー写真から潜在的な色素斑を含めた色素沈着の計測による肌ダメージの評価が可能となった。今後,より撮影環境に頑健な手法の開発とスマートフォンで利用可能なアプリケーションの開発を進めることで,色素沈着の計測を通した日常的な肌ダメージの評価による予防医学に向けた利用が期待されるとしている。