北海道大学,大阪府立大学,北海学園大学は,数百nmまで細くした光ファイバーが発生する光の力(光圧)を利用して,液体中を漂うナノ粒子を一粒ずつ捕集し,品質や特性に応じて選別・輸送する新技術の実験に初めて成功した(ニュースリリース)。
ナノ粒子は,ナノサイズに特有な性質や機能を持つため,医薬品,化粧品,バイオセンサー,触媒,太陽電池,量子コンピューターなど様々な分野で応用されているが,大きさ・形・含有物によって粒子一粒ずつの品質や特性が異なるため,一層の高品質化・高性能化にあたって,所望のナノ粒子を選別・分離する技術が求められていた。
研究はでは新材料として注目されているナノサイズのダイヤモンド微粒子を用いた。ナノダイヤモンド粒子は,窒素空孔中心(NVセンター)と呼ばれる構造欠陥の電子が緑色の光を吸収して赤色の蛍光を安定に発する特性があり,細胞や生体組織のイメージングに利用されている。また,この構造欠陥の電子は磁気特性を持つため,ナノ空間の磁気センサーや量子コンピューターの素子としての応用も検討されている。
通常の光ファイバーをヒーターで加熱・延伸して1/100以下まで細線化したナノファイバー(直径約400nm)を作製し,ファイバーの両端から緑色レーザー光と近赤外レーザー光を入射し,ナノファイバーの周囲に発生する光圧によって液体中を漂うナノ粒子を引き寄せるとともに粒子をファイバーに沿って輸送する装置を開発した。
ナノダイヤモンド粒子をナノファイバーで捕集して輸送すると,構造欠陥がない粒子は近赤外レーザーの光圧に押されて動くが,構造欠陥がある粒子は緑色レーザー光を強く吸収し,そのために生じる光圧が近赤外レーザーの光圧に打ち勝って逆方向に動く。この機構を利用して,構造欠陥の有無によって粒子を一粒ずつ選別し,それぞれ反対方向に分離輸送することに成功した。すなわち,窒素空孔中心を含有する品質の良いナノダイヤモンド粒子だけを光選択分離することを実現した。
さらに,ナノファイバーに沿って動く速さを測定することによってナノダイヤモンド粒子一粒の高精度吸収分光計測を世界で初めて成功させ,何個の構造欠陥があるかを解析することも実現可能となった。
今回開発した技術は,ナノダイヤモンドを利用した開発への貢献のほか,新奇なナノ粒子の研究においても,光圧を用いた新しい原理の解析手法として重要な役割を担うとする。さらに,選別したナノ粒子で光圧により高度な配列構造材料を作製する,新しい光利用技術への展開も期待されるとしている。