鹿児島大学と東京大学は,奄美群島の加計呂麻島沿岸の砂泥底から発見されたクモヒトデの1種が日本初記録であることを明らかにし,この種は外部刺激に対して肉眼でも確認できる明るさの光を発することも明らかにした(ニュースリリース)。
クモヒトデとは,棘皮動物門クモヒトデ綱に属する海洋生物の総称で,多数の骨片で構成された五本の腕を器用に動かす,ヒトデのような見た目の無脊椎動物。クモヒトデは潮間帯から深海底まで,さまざまな海洋環境に広く分布しているが,その分類学的研究はいまだ十分ではない。
特に潮下帯の,スキューバダイビングでのアクセスを要する水深数メートルから数十メートルの環境にどのような種が分布しているかは明らかにされておらず,中でも奄美群島沿岸の研究はほとんど手付かずの状態だった。
クモヒトデ類の一部の種が発光能力を持つことは以前より知られており,近年では,オーストラリアの海底洞窟からこの種と同属の新種クモヒトデの発光行動が報告されている。しかし,それらのクモヒトデが光を放つ理由については明らかにされていない。
研究では,加計呂麻島南岸の水深15m付近にて,夜間の潜水調査によってクモヒトデ類2個体の標本を採集した。走査型電子顕微鏡等を用いて体内の微小骨片の形態も詳細に観察した結果,これらはOphiopsila polyacantha H. L. Clark,1915という種に類似することが分かった。
この種は過去にインドネシアおよびシンガポールからの記録が残されているが,最新の報告でもおよそ90年前に遡り,報告例もわずか2例程度にとどまる。研究で得られた標本は,上記の過去の記載例とは異なる特徴も見られ,今後,新種と判断される可能性も示唆されているという。
今回,その特徴的な黄色・白・黒の体色が,毒蛇ハブの奄美群島特有の色彩型,通称 “キンハブ” を思い起こさせるとして,キンハブトラノオクモヒトデの和名を提唱した。
更に,この種が外部からの刺激によって緑色の光を発することを明らかにした。このようなクモヒトデ類の発光は,魚などの捕食に対する防御行動であると推測されているが,詳しい理由は明らかにされていないという。このヒトデの放つ光は暗所にて肉眼で明瞭に視認できるほどで,条件によっては夜間潜水の最中に自然下でも観察することができるという。
研究グループは,今後,生態学的特徴と発光現象との関連性が明らかになれば,光る理由の解明につながると期待する。また,これほど身近に自然下での発光を観察できる種は一般的には少ないため,近年注目が集まる海洋生物の発光研究の材料としても有望だとしている。