NICTら,光格子時計を天体信号で高精度計測

情報通信研究機構(NICT)は,従来の10倍以上の周波数帯域を同時に観測・データ処理可能な広帯域VLBI観測システムを開発し,これを搭載した小型アンテナ(直径2.4m)を使って,日本(NICT本部)とイタリア(INRIM本部)の間で光格子時計の周波数比を16桁の精度で計測することに成功した(ニュースリリース)。

時間の基準は,現在はセシウム原子の9.2GHzの共鳴周波数を基準としているが,光格子時計など近年の光時計の目覚ましい発展により,原子の光領域の共鳴周波数(数百テラヘルツ)を基準とする変更が検討されている。

しかし,新しい時間の基準として採用するためには,世界各地の光時計の発生する周波数比を精密に確認する必要がある。従来,大陸間での周波数比較には,通信衛星や測位衛星の信号を使っていたが,その精度は光時計には不十分であり,遠距離の場合は利用できる衛星が少なく,測定可能な時間も制限される等の課題があった。また,光ファイバーも,信号の減衰やファイバー利用の経費の観点から非現実的だった。

VLBIは,複数の電波望遠鏡で銀河系外の天体の信号を同時に観測し,信号の到達時間差から数千km離れたアンテナ間の距離をセンチメートル以下の精度で計測できる。研究では,NICTのストロンチウム(Sr)光格子時計とイタリアの国立計量研究所(INRIM)の運用するイッテルビウム(Yb)光格子時計の周波数比を,2.4m直径のアンテナを使ったVLBI観測により,16桁の精度で計測した。

VLBI観測においては,一般に大型のパラボラアンテナが必要だが,NICTは観測する周波数の帯域幅を従来の10倍以上広くし,さらに,データ取得レートを64倍以上向上する新しい観測システム(従来比80倍性能)を開発した。これに加えて,大型アンテナ(NICT鹿島34mアンテナ)を使って同時に観測することによって,8,800km離れたイタリアと日本に設置した2つの小型アンテナの間でVLBI技術による光時計の周波数比較を可能とした。

今回用いた広帯域VLBIによる周波数比較は,測地VLBIの分野で国際的に設置が進められている全地球VLBI観測システム(VGOS)の観測局を使って可能であり,測地VLBIが度量衡分野で有効な計測手段となることを実証した。

また,NICTが発生・供給している日本標準時の時刻差を計測することも可能であり,これは,外国の所有物である人工衛星でなく,銀河系外の天体からの信号を仲介して協定世界時と時刻同期ができることを意味し,標準時の安定運用につながるとしている。

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