物質・材料研究機構(NIMS)と茨城県つくば市は共同で,NIMSが開発した材料を用いた,透明度をスイッチで切り替えられる「調光ガラス」を、市民が利用する施設の窓に設置し,将来の実用化に向けて長期使用に対する動作安定性と切り替えの操作性向上に関する実証実験を9月8日から開始した(ニュースリリース)。
EC調光デバイスは航空機の窓や車の防眩ミラーなどとして実用化が進んでいる。EC調光ガラスの性能は,用いるEC材料に依存する。現在,使用されているEC材料としては,酸化タングステンやビオロゲンなどが挙げられる。しかし,従来材料は色のバリエーションに乏しく,その利用用途は太陽光や後ろの車のライトのまぶしさを軽減する遮光機能に限られている。
一方,最近のオフィスや商業施設では開放的な大きな窓が増えており,今後EC調光ガラスが普及するためには,オフィスや車内の空間デザインにマッチする多様な色のガラスの提供が期待されている。
NIMSが開発した新しいエレクトロクロミック材料であるメタロ超分子ポリマーは,既存材料に比べ発色性や低消費電力性に優れているだけでなく,含まれる金属種の違いなどにより,青,緑,紫,黒といった様々な色を有する。従って,オフィス空間や車内空間の雰囲気に合わせた色のEC調光ガラスを作製することが可能となる。
しかし,新しいEC材料であるため,実用化に向けて,建物に設置した状態での耐久性や切り替えの操作性などを検証する必要があった。
今回,つくば市の支援を受けて,つくばスタートアップパークの窓に,青色と紫色のメタロ超分子ポリマーを用いて作製したエレクトロクロミック調光ガラスを設置し,長期使用における動作安定性を確認するための実証実験を9月8日より開始した。
また,実証実験期間を通じて,施設利用者からのアンケート結果などを参考に,操作性を含めたデバイス全体の改良を行なっていく予定だという。一方,実証実験中のEC調光ガラス窓をショーケースとみなし,市内外の製造企業に積極的にこの技術を紹介することで,将来の実用化に向けたサプライチェーンの構築を目指す。
なお,この調光ガラスは既存の窓の内側に後付けで設置しており,実証実験後は原状復帰が可能だという。
様々な色の調光ガラスは,国内外のオフィスや商業施設の他,車や電車等の窓などへの広範囲な普及が期待される。NIMSでは今回の実証実験を通じ,多くの人や多様な企業に関心を持ってもらい,多様な用途での実用化を目指すとしている。