産総研ら,液晶と高分子で調光ガラスの実用化進展

産業技術総合研究所,神戸市立工業高等専門学校,大阪有機化学工業は,透明と白濁の切り換え繰り返しで高い耐久性をもつ液晶と高分子の複合材料を開発した(ニュースリリース)。

調光ガラスはさまざまな方式が提案されている。電気や雰囲気ガスで動作させるタイプは,ユーザーが切り換えたり自動化したりできる点で利便性が高く,電気方式はすでに上市されている。しかし,設置条件や導入・運用費用にまだ課題がある。これに対し熱応答型は電源を必要とせず,施工後の後貼りや必要に応じ剥がすといった取扱いで有利な面がある。

研究グループは,液晶と異方性高分子が同じ方向に配向し,微細に相分離した複合構造を有する高分子ネットワーク液晶(PNLC)を開発した。これは,材料内の光学的な不均一さが温度とともに変わることで,低温で透明状態、高温で白濁状態に切り換わり,従来のタイプとは逆の温度依存性を有する。

このPNLCは,表面を配向処理した二枚のガラス基板に混合原料を挟んで薄い層とし,紫外光を照射することで容易に作ることができるという。調光ガラスとしての性能面で優れ,高温時の白濁状態では入射方向と反対側(室外側)に多く光散乱し,省エネ窓として良好な調光特性が得られる。今回,課題である透明/白濁切り換えの繰り返し耐久性の向上に取り組んだ。

そして今回,可視光の直進透過率で80%以上,太陽光の透過率で20%以上変化する調光性能と良好な耐久性を両立したPNLCの創製に成功した。5分加熱+5分自然冷却を一周期とする温度変化を1000回以上繰り返した後も劣化の傾向がなかったという。

1000回以上の繰り返しは,10年(東京では16年)以上の耐久性に相当し,今回の結果では劣化を示さなかったことから,さらに長期にわたり性能を維持すると見込む。これは,Low-E複層ガラスなど,一般普及している窓ガラスのメンテナンス保証期間より長いため,十分な繰り返し耐久性だとする。

このPNLCは,液晶と異方性高分子が,それぞれ領域を形成し相分離した構造を有する。低温では,液晶と異方性高分子がもつ側鎖が同じ方向に配列し,全体として光学的に均一な構造となり透明状態となる。高温になると,この側鎖の向きは変わらないが,液晶の方向が乱れるため,光学的に不均一化して光散乱がおき白濁する。

開発したタイプでは,架橋剤を加え,液晶と側鎖の配向を同じ方向に維持したままで異方性高分子を網目化して,相分離構造の熱的安定化を図ったことで,耐久性が向上したと考えられるという。研究グループは,次の段階でコスト削減に着手するとしている。

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