大阪大学は,外部からエネルギーを与えなくても室温で自動的に動く磁極が作る粒子の回路を実装することに成功した(ニューリリース)。
情報通信機器の低消費電力化では,小さなエネルギーで動作する計算器が必要となる。細胞やその中の分子は室温における熱揺らぎを利用することで,非常に小さなエネルギーでブラウン運動を引き起こす。このように,ブラウン運動を用いて動作する計算器をブラウニアン計算器と呼び,低消費電力技術として期待されている。
ブラウン運動は液体中の微粒子に見られる現象だが,磁性薄膜において特定の領域だけ磁極が逆の方向を向いた粒子であるスキルミオンを用いると,室温の固体素子中でもブラウン運動が発生することが知られている。
研究では磁性薄膜においてブラウン運動するスキルミオンの回路の実装と分岐路の作製に成功し,外部からエネルギーを与えなくても,スキルミオンが配線中や分岐路において運動する様子を確認した。さらに,磁性薄膜を削り出さず,代わりにスキルミオン抑制層を成膜することで,スキルミオンのブラウン運動を促進させる回路の実装にも成功した。
このような技術を応用して,現在では,二つのスキルミオンが素子に入力された時だけ二つのスキルミオンを出力する機能を持つ,C-ジョインと呼ばれるスキルミオンのブラウン運動を利用した論理演算の基本素子の開発を進めている。
C-ジョインとは,二つ並んだスキルミオンの配線と,スキルミオンを制御するための縦方向に伸びた電極を示す。この素子は電極の下に二つのスキルミオンが同時に来たときにのみスキルミオンを通過させる。このような機能を持つ素子ができると,ブラウニアン計算が可能になるという。
現在のブラウン運動の制御は電流磁場を用いているため大きな消費電力を要するが,将来的には電流を伴わず電圧だけでスキルミオンを制御することで,極めて小さなエネルギーでブラウニアン計算が可能になると期待される。これらの回路の実現はスキルミオンを用いたブラウニアン計算器の基盤技術となるもの。
今後,これらの技術を利用したブラウニアン論理演算素子などの発展,およびそれらを利用した新しい人工知能ハードウエアの実装が期待されるという。研究グループは今後,超低消費電力人工知能ハードウエアの実現に向けて,熱的・量子的なスキルミオンの制御法を研究していくとしている。