東大,ブラウン運動の軌跡からナノ粒子の形状を識別

東京大学の研究グループは,液中1粒子観察法であるNTAと深層学習解析を組み合わせた新しいナノ粒子特性評価法の有効性を示し,ブラウン運動の軌跡データから形状を識別する深層学習モデルの構築に成功した(ニュースリリース)。

液中ナノ粒子の評価法として,ブラウン運動の軌跡を解析する手法がある。NTAと呼ばれ,100年以上前にアインシュタインが見出した理論式を用いて粒子の直径を求める。マイクロからナノサイズの単一粒子を計測する簡便な手法として利用されているが,ナノ粒子の形状を評価できないという長年にわたる課題があった。

ブラウン運動の軌跡には粒子形状の影響が反映されるが,非常に速い動きを実際に計測で捉えることは難しい。また従来の解析法は,たとえ粒子が非球形であっても,無条件に形状を球と仮定してストークス・アインシュタインの式を用いて解析するため,正確ではない。

しかし,大規模なデータの中に隠れた相関関係を見つけるのが得意な深層学習を用いれば,計測データが平均化されている場合や,分離できない誤差を含む場合でも,形状の違いから生じる差を検出できる可能性がある。

研究グループは,実験方法を変えることなく,計測したブラウン運動の軌跡データから形状を識別する深層学習モデルの構築に成功した。データの時系列変化だけでなく周囲との相関性も考慮するため,畳み込みによる局所特徴の抽出を得意とする1次元CNNモデルと時間ダイナミクスの蓄積ができる双方向LSTMモデルを統合した。

統合モデルを用いた軌跡解析により,従来のNTAだけでは区別できない,ほぼ等しい大きさで形が違う2種の金ナノ粒子について,1粒子ベースで約80%の分類精度を達成できた。

このような高い精度は,深層学習解析による液体中単一ナノ粒子の形状分類が,初めて実用的なレベルに達したことを示している。さらに,2種(球形・棒形)のナノ粒子の混合溶液について,混合率を判定する検量線を作ることができた。世の中で手に入るナノ粒子の形状を考慮すると,この方法で十分に形状の検出が可能だと考えられるという。

NTAの拡張は,球形とは限らないナノ粒子の性状・凝集状態や均一性評価,品質管理など,研究のみならず工業・産業分野への応用に繋がる。

特に,研究グループは,細胞外小胞などの多様性に富んだ生体ナノ粒子について,生体内に近い環境下での性状評価のソリューションになりうるとしている。また,非球形粒子の液中ブラウン運動の基礎研究において革新的なアプローチとなる可能性があるという。

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