東京大学宇宙線研究所は,スーパーカミオカンデのタンク中の純水にレアアースの一種であるガドリニウムを加え,新たな装置として観測をスタートさせたと発表した(ニュースリリース)。
これまで超新星ニュートリノは,1987年に大マゼラン星雲での1例のみでした観測されていない。スーパーカミオカンデの前身「カミオカンデ」は10秒間に11個のニュートリノを捉えたが,爆発メカニズムの解明のためには,さらに豊富なデータが必要となる。
スーパーカミオカンデは,我々の銀河系において超新星爆発が起きた場合,約8,000ものニュートリノ事象を捉えることができる。しかし,その超新星爆発の頻度は30年~50年に一度であり,もっと多くの情報を得るには,超新星背景ニュートリノの観測が必要となる。超新星背景ニュートリノは,これまでもスーパーカミオカンデタンク内で年間に数回程度反応があったはずだが,ノイズによる反応と見分けがつかなかった。
スーパーカミオカンデタンク中の純水にレアアースの一種のガドリニウムを溶解すると,反電子ニュートリノが反応した際に生成される中性子がガドリニウムに捕獲され,ガンマ線を放出する。そのガンマ線もチェレンコフ光を発生する特徴的な発光が起きるため,ノイズから超新星背景ニュートリノによる反応を選び出すことができるようになる。
ガドリニウムの中性子の捕獲能力は非常に優れており,0.01%の濃度で水に溶かしても50%の効率で中性子を捕獲することができ,90%の効率を得るのも0.1%の濃度で十分となる。ただ,環境基準などはないものの,ガドリニウムに対しては十分配慮が必要となる。
スーパーカミオカンデタンクでは以前,一日約1トンの純水が漏れていたが,2018年の改修工事以降,有意な水漏れは確認されていない。その後,2019年末までに不純物が極めて少ない純水でタンクを満たした。その後,純水を硫酸ガドリニウム水の循環純化装置で処理する試験を行ない,タンク内純水の透過率を元のレベルで保てることを確認した。
そして,スーパーカミオカンデに13トンの硫酸ガドリニウム八水和物(Gd2(SO4)3∙8H2O)を導入した。これは5万トンのスーパーカミオカンデの純水に対して重量比で0.026%の濃度であり,Gdの濃度としては重量比0.01%になる。
今回最初のステップとして0.01%濃度のガドリニウムを導入し,中性子の捕獲効率50%を達成した。東大では今後数年で濃度をあげていき,7~8年の観測で超新星背景ニュートリノの世界初観測を目指すとしている。