国立天文台(NAOJ)と東京大学らの国際研究グループは,すばる望遠鏡の大規模データと機械学習に基づく新手法を組み合わせることにより,現在の宇宙に残る,形成して間もない銀河を複数発見することに成功した(ニュースリリース)。
生命の源となる酸素などの重元素は,宇宙の長い歴史を通じて,星によって徐々に作られてきた。そのため,形作られ始めたばかりの銀河,つまり形成初期の銀河には,重元素はほとんど含まれていなかったと考えられる。
初期宇宙にはそのような形成初期の銀河が多くあったと思われているが,標準的な宇宙論によると,現在の宇宙にもわずかに形成初期の銀河が残っている可能性が予言されていた。
研究グループは,すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ HyperSuprime-Cam(HSC)で撮影された高感度かつ大規模な画像データの中から,そのような形成初期の銀河を探そうと試みた。しかし,すばる望遠鏡の大規模データは約4000万個と多数の天体を含むため,わずかにあるかもしれない形成初期の銀河を見つけるのは至難の技だった。
そこで研究グループは,膨大なデータの中から形成初期の銀河を探し出すために,新しく機械学習の手法を開発した。理論モデルから予想される詳細な色をコンピューターに繰り返し学習させた上で,このコンピューターで形成初期の銀河だけを選び出す。
このようにして見つけた候補天体に対してすばる望遠鏡やケック望遠鏡などによる分光追観測を行ない,得られたスペクトルから天体の元素量を調べた結果,ヘルクレス座の方向,4.3億光年離れた位置にある銀河の酸素含有率が,太陽のわずか1.6%しかないことがわかった。
この酸素含有率は,これまでに報告されてきたどの値よりも小さく,記録的な値。これほど酸素含有率が低いということは,この銀河にあるほとんどの星がごく最近作られたことを意味するという。
さらに,この銀河が持つ星の総質量は,天の川銀河のわずか10万分の1しかないことが明らかになった。これは,単独の銀河としては極めて軽いもので,形成初期の銀河であると結論づけられた。
この研究成果により,現在広く受け入れられている標準的な宇宙論モデルを裏付けることができた。さらにこの銀河は,長い宇宙史の中で,最後の時期に誕生した銀河の可能性があるとしている。