京都大学は,高ピーク出力かつ高ビーム品質のレーザー光を,電気的かつ2次元的に走査可能な新たなフォトニック結晶レーザーチップの開発に成功した(ニュースリリース)。
今回,フォトニック結晶内部の電界分布に対し,微小な空孔格子点を,光を放射するナノアンテナと見なすナノアンテナ理論を構築した。考案した「複合」変調フォトニック結晶では,各空孔格子点の位置とサイズの両方に変調を加え,ビームを出射させたい方向の情報を載せることで,光ビームを任意の方向に出射できる。
このフォトニック結晶には4つの発振可能な状態(モード)が存在するが,位置やサイズを変化させない通常のフォトニック結晶の場合,各格子点(ナノアンテナ)からの放射電界ベクトルが正味ゼロとなったり,隣どうしのナノアンテナにおける放射電界ベクトルが互いに打ち消しあうため,フォトニック結晶全体から光放射は生じない。
複合変調フォトニック結晶の場合,ナノアンテナの重心位置が変化することにより,放射電界ベクトルがゼロでなくなり,隣り合うナノアンテナどうしが強め合いの干渉を生じるようになる。また別のモードでも,ナノアンテナの大きさを変調することで,隣どうしの放射電界ベクトルの打ち消し合いが無くなり,全てのモードで適切な光放射が生じる。
レーザー発振は,最も損失の少ない,すなわち,光放射が最も小さいモードで起こることから,位置とサイズを同時に変調することで,狙ったモードにおいて適切な放射強度(光出力)で安定に動作する,すなわち,高出力・高ビーム品質動作が得られることが判明した。
様々な角度へ出射できるように設計した複合変調フォトニック結晶レーザーを2次元(10×10)に集積したデバイスを作製した。各レーザー領域は150μm角(電流注入領域は直径100μm)。電圧を印加したレーザーのみを駆動できる。
実験の結果0.4W/Aのスロープ効率が得られ,ワット級の高いピーク出力が得られた(5W級の光出力を確認)。遠視野像も,半値全幅で0.7度程度の非常に狭いビーム拡がり角が得られ,高い光出力まで安定に動作し,かつレンズ無しで動作可能なことが分かった。
2次元ビーム走査の実証では,一対のビームを,出射角θを0°から45°まで放射状に走査したり,出射角θを固定(=20°)して,方位角φを0°から45°(および180°から225°)まで円周上に走査するなど,任意の順番・タイミングで自在なビーム走査が実現出来た。
今後,デバイスサイズを4倍にするだけで,解像点を900倍以上,つまり90,000点以上にすることも可能だという。この技術は,非機械方式のLiDARを構成する要素技術として,今後に資するものだとしている。