京都大学,豪シドニー工科大学,独ハノーファー大学は共同で,特殊な偏光を持つレーザービームを用いて,「六方晶窒化ホウ素(hBN)」から発生した光子の射出方向を明らかにすることに成功した(ニュースリリース)。
光量⼦コンピューターや,量⼦暗号通信などの実現には,光⼦をひとつひとつ発⽣する「単⼀光⼦源」の実現が重要となる。近年,これを実現する物質として,窒素とホウ素が六⾓形の格⼦状に交互に規則正しく並んだ層状物質「六⽅晶窒化ホウ素(hBN)」が注⽬されている。
このhBNに,原⼦をひとつだけ取り除いた点⽋陥を導⼊すると,⽋陥中に作られる正と負の電荷のペア(電気双極⼦)から単⾊性に優れる光⼦が室温で安定に発⽣するが,これまで,hBNから発⽣する光⼦が,どの⽅向に射出されているか明らかになっていなかった。
研究では,特殊な偏光を持つレーザービームを⽤いて,hBNから発⽣した光⼦の射出⽅向を明らかにした。通常の直線偏光のレーザービームでは,ビームの位置によらず偏光⽅向は⼀定だが,今回は,この直線偏光のビームとは異なり,ビームの中⼼から放射状に偏光するビームと円周⽅向に偏光するビームを⽤いた。
これらのビームを⽤いてhBNを励起すると,直線偏光の場合ではひとつの輝点となる蛍光イメージが,電気双極⼦の向きによって敏感に変化する。そのため,蛍光イメージのパターン解析によって,電気双極⼦の向きから光⼦の射出⽅向を明らかにすることができる。
今回,特殊な偏光光学素⼦を⽤いて,偏光⽅向が⽔平もしくは垂直の直線偏光のビームから,それら⼆つの特殊な偏光ビームを作った。それぞれの偏光ビームを,100倍の顕微鏡⽤対物レンズを使い,幅約
200nm,⾼さ約20nmのhBN粒⼦(ナノフレーク)に集光した。
発⽣した光⼦を,単⼀光⼦検出器で検出して発光イメージを測定し,理論結果と⽐較した結果,測定したhBNナノフレーク中の電気双極⼦はビームが進む⽅向から83.5度,垂直な⾯内で163度傾い
ていることがわかった。また,いくつかのhBNナノフレークについても測定を⾏なった結果,電気双極⼦が平均で約80度傾いていることがわかった。hBNナノフレークから発⽣した光⼦は,これらの推定された電気双極⼦の向きと直交する⽅向に射出されていると考えられるという。
この⼿法を⽤いてhBN中の向きを最適化し,光ファイバと⼀体化させると,室温で動作する光ファイバから効率良く光⼦が発⽣する単⼀光⼦源を実現できる。それにより,光量⼦コンピュータや量⼦暗号通信の研究の⾶躍的な発展が期待できるとしている。