理化学研究所(理研),東北大学,英オックスフォード大学,米アリゾナ大学らの研究グループは,主要な細胞内分解システムの「オートファジー」と「ユビキチン・プロテアソーム系」が植物では独立に働き,生体内の新陳代謝を支えていることを発見した(ニュースリリース)。
植物は栄養素を有効利用するため,一度吸収した栄養素を何度も再利用しながら成長する。特に,葉の細胞で光合成を行なう「葉緑体」には大量の栄養素が投資されるため,植物は時に葉緑体を積極的に取り壊すことでその栄養成分を回収し,より若い組織や次世代となる種子を作るために再利用する。このような細胞内成分の分解は,老廃物が蓄積し,過剰に老化が進むことを防ぐためにも重要となる。
理研これまで,オートファジーが葉緑体の分解を担うことを明らかにしてきた。そしてもう一つの主要な細胞内成分の分解系である「ユビキチン・プロテアソーム系」は「ユビキチン」という目印をつけた成分を選び取って分解する仕組みで,近年,この分解系も葉緑体分解に関わることが明らかにされた。しかしこれらの二大分解系が,葉緑体の分解においてどのように作用し合っているのかは不明だった。
研究グループはまず,葉緑体のユビキチン化に働く遺伝子の変異株(モデル植物シロイヌナズナ)において,葉緑体分解を可視化するための蛍光タンパク質マーカーを発現する株を作出し,分解の様子を観察した。その結果,葉緑体のユビキチン化の仕組みがなくとも,オートファジーによる葉緑体分解が正常に進むことが明らかになった。生化学的なタンパク質解析も同様の結果を示した。
以上から,葉緑体のユビキチン化はオートファジーの活性化に必要ないこと,つまり二つの分解系が独立に働いていること証明した。さらに,葉緑体のオートファジーに関わる遺伝子,葉緑体のユビキチン化に関わる遺伝子,両遺伝子の変異株を作出し,成長やストレス耐性を評価した。その結果,二重変異株では葉の老廃物の除去がうまく行なえず,活性酸素が過剰に蓄積して早く枯れることが分かった。
また,それぞれの変異株のさやを調べたところ,二重変異株では栄養のリサイクルが強く阻害され,飢餓に弱くなり,種子の数が減少することを発見した。以上の成果により,二大分解系が独立して働くことで成長を支える植物の生存戦略の一端が明らかとなった。
この研究は,植物科学の議論の一つに結論を出した。今後,その詳しい仕組みに踏み込んでいくことで,少ない肥料で環境負荷を低減しながらも,十分な収量・品質を維持できる農作物の設計に貢献するとしている。