東邦大学と産業技術総合研究所は,温度応答性高分子を用いて,簡便に効率良く,直径の小さい半導体型カーボンナノチューブ(CNT)を分離する方法を開発した(ニュースリリース)。
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は,グラフェンシートの巻き方によって金属にも半導体にもなり,導電性基板や薄膜トランジスタへの応用が報告されている。しかし,生成段階では様々な構造を持つナノ物質の混合物として得られ,構造制御は非常に難しい。
研究グループでは,一液にすべての材料を混合することで分離工程をシンプルにしたSWCNTの新規分離手法として,温度応答性高分子を用いたSWCNTの分離手法を開発してきた。
下限臨界溶解温度(LCST)よりも高い温度に加熱すると,温度応答性高分子の水素結合様式が変化し,水溶液中の温度応答性高分子が凝集し,固体と液体の2相に分離する。特に温度応答性高分子の一つであるpoly(PNIPAM)は,体温以上に温めるとこの相転移を生じることから,広い分野において研究が進められている。
この性質を利用することにより,コール酸ナトリウムで分散させたSWCNTを混合し加熱すると,半導体型のSWCNTのみが液相に分離できることを発見した。しかし,どうして半導体型SWCNTのみ液相に分離されるのか,その分離機構は未解明だった。
研究では分離機構を解明することで,分離におけるSWCNTの構造選択性を精密に制御することを目指し,SWCNTとSWCNTを取り巻く界面活性剤分子,そして温度応答性高分子の3成分の相互作用について,各成分の濃度依存性を明らかにした。
また,SWCNT表面への界面活性剤分子の吸着状態が,SWCNTの直径と電気的特性(半導体,金属)により変化し,混合した温度応答性高分子との間で相互作用の強さが変わることがわかった。さらに,添加剤により直径の小さいSWCNTのみ液相に分離できることを明らかにした。特に直径の小さいSWCNTを多く含む試料を出発物質として用いた場合,0.7nm程度の直径を持つ半導体型ナノチューブを選択的に得ることができた。
この研究手法は,超遠心分離操作を必要とせず,分離試料のコンタミネーションが少なく,またPNIPAMは可逆的に温度相転移を誘起できるためリサイクル可能といった利点があり,SWCNTの分離試料を安価かつ大量に得る分離工程を可能にする。
得られる分離溶液に含まれるSWCNTには直径の小さい半導体型SWCNTのみ含むことから,バンドギャップの大きな半導体デバイスへの応用などが期待されるとしている。