東京大学らの研究グループは,細胞内生体分子を光学的に高速検出する誘導ラマン散乱(stimulated Raman scattering,SRS)顕微法で撮像し,画像解析で細胞を高速識別して,その解析結果に応じて所望の細胞を分取する,世界初の「ラマン画像活性細胞選抜法(Raman image-activated cell sorting, RIACS)」を開発した(ニュースリリース)。
多種多様な細胞の組成や構造,形態,振る舞いなど,個々の細胞から得られる情報量と,解析可能な細胞数はトレードオフの関係となっており,多様な細胞を網羅的に研究するうえでの限界となっていた。
1つ1つの細胞を解析して所望の細胞を分取する画像活性セルソーティングで実証されていた撮像法は,細胞にダメージを与えたり,細胞膜を透過しにくい蛍光標識に大きく依存しているという問題があった。
研究では,光学や電気工学,情報科学,機械工学,生物学,医学など多分野にまたがる研究者を結集し,細胞内生体分子の分子振動数を光学的に高感度検出する誘導ラマン散乱顕微法(SRS)で撮像し,画像解析で細胞を高速識別して,その解析結果に応じて所望の細胞を分取する,世界初のラマン画像活性細胞選抜法(RIACS)の基盤技術を開発した。
この技術は,SRS顕微イメージング技術,10Gb/sイーサーネットによる高速データ処理システム,マイクロ流体技術を活用した高速分取技術や細胞制御技術など,異分野融合での大規模な共同研究によって達成された。
原理実証では,医学的な応用展開に向け脂肪細胞を用いた分取実験,光合成やバイオ燃料の研究に使われる緑藻類クラミドモナスを用いた分取実験,物質生産効率の高い微生物のスクリーニングへの応用展開に向け緑藻類ユーグレナを用いた分取実験を行なった。分取実験で用いた細胞には,識別するための蛍光標識も付加することで,蛍光顕微鏡により分取結果を検証し,RIACSで正しく分取されていることを確認した。
これらの分取実験による実証結果は,細胞集団から代謝活性の高い細胞を選別し,その遺伝子や代謝経路を調べることが可能であることを示しているという。ユーグレナの分取実験の例では,この細胞選別を従来のラマン顕微鏡とピペット操作による手作業で行った場合,3日以上の時間が必要となるのに対し,研究における分取実験は6分以内に完了し,従来と比較すると約900倍高速に細胞選別を行なうことが可能となったとしている。