自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター(ABC)が参加する国際共同研究グループは,NASAのトランジット惑星探索衛星TESSと退役したSpitzer宇宙望遠鏡などによる観測から,太陽系から約31.9光年離れたところにある若い恒星,けんびきょう座AU星(AU星)のまわりを約8.5日で公転する海王星サイズの惑星を発見した(ニュースリリース)。
AU星は,南天にあるけんびきょう座の方向,太陽系から約31.9光年離れたところにある,若い赤色矮星(低温度の恒星)。けんびきょう座AU星は,若い恒星の特徴のひとつである残骸円盤を持っていることが知られていたが,これまで惑星の存在は確認されていなかった。
TESSは,2018年7月から8月のおよそ27日間にわたって,AU星の明るさの変化を測定した。AU星はまだ若く,自転周期が約 4.9日と自転の速い赤色矮星であるため,恒星表面にある大きな黒点の存在や爆発現象であるフレアが頻繁に起きることによって,複雑な明るさの変化をしていた。
そこで研究グループは,ガウス過程と呼ばれる統計手法を用いた解析によって恒星由来の明るさの変動を取り除き,惑星が恒星の前を通り過ぎるトランジットという現象に由来する明るさの変化を探した。
その結果,約27日の観測期間中に,2回の同じ形のトランジットが約17日離れて発見された。しかし,この2回のトランジットのちょうど真ん中あたりには,TESSのデータがなかった。これはTESSが地球に向けてデータを送信している間は観測ができないため。
この観測が中断している時間にトランジットが起きていたかがわからないと,公転周期が約17日なのか,それとも半分の約 8.5日なのかが判別できない。そこで2019年にSpitzer宇宙望遠鏡による追加のトランジット観測が行なわれた。この観測から,この惑星の公転周期が約8.5日であることが確定した。
新しく見つかった惑星は,海王星より8%だけ大きい惑星であることがわかった。この惑星の質量はまだ正確には測定されていないが,地上望遠鏡による主星の視線速度の観測から,地球の58倍より小さいことがわかった。さらに,TESSのデータにはこの惑星とは異なる別のトランジットも検出されており,この惑星系には他にも惑星があることが示唆されているという。
AU星は太陽系から比較的近く,主星も明るいため,今後,発見した惑星のさまざまな追観測が行なわれると期待される。AU星も,これから多くの追観測や理論的研究が行なわれ,惑星系の形成と進化を理解が進むと期待されるとしている。