富山県立大学は,通常数μmの大きさのバクテリアを数十μm以上に巨大化してバクテリアの細胞内に直接チップ(微小ガラス管)を挿入し,蛍光タンパク質を導入することに世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
異なる生物種間におけるDNAの水平伝播は,バクテリアの進化に大きな影響を与えてきた。すなわち,バクテリアは多くの遺伝情報をこの水平伝播に
よって獲得してきた。
しかし,バクテリアのゲノム(全遺伝情報)サイズは真核細胞生物よりも短く,数千の遺伝子しか持っていない。このことは,バクテリアの進化において,多くの遺伝情報が失われてきたことを示す。すなわち,水平伝播で獲得した遺伝情報は,その細胞に内在する遺伝情報の欠失を誘導してきたと考えられる。
研究グループは,バクテリア細胞における遺伝情報の獲得と欠失の関係を調べるため,バクテリア細胞へ様々な遺伝情報を導入し,その安定性の程度を示すことができる実験系の確立を目指している。
細胞内にDNAやタンパク質を導入する方法に,マイクロインジェクションという技術がある。これは細胞にチップ(微小ガラス管)を突き刺して,物質を導入するもので,動物細胞への核移植などの際に用いられている。しかし,通常のバクテリア細胞はサイズが非常に小さく,この方法は技術的に不可能とされていた。
そこで研究グループは,バクテリア細胞へのマイクロインジェクションを行なうため,バクテリア細胞の巨大化を行なった。通常数μmの直径のバクテリアを数十μm以上に巨大化し,さらに,マイクロインジェクションに耐えうる強度の細胞膜にした。
さらに,巨大化を行なう際の培地における金属塩組成や浸透圧を調整することによって,効率よくマイクロインジェクションを行なうことができるようにったという。また,異なるタイプのバクテリア細胞であっても,マイクロインジェクション可能な細胞を構築できることを示した。その際,通常の分裂する細胞では生じない液胞を巨大化細胞では細胞質に形成することを明らかにした。
この研究により,遺伝的な変異を加えることなく,広い範囲のバクテリアの細胞に対して,様々な大きさのDNA,RNA,タンパク質,さらにはそれらの複合物を細胞内に導入することが可能となった。これにより,ゲノム工学と細胞工学の融合領域が大きく展開し,設計したゲノム情報を持つ細胞の創生へつなげることが可能となるとしている。