東京理科大学,スペイン マドリード・コンプルテンセ大学の研究グループは,代表的なタンパク質の一種であるヒト血清アルブミンを,亜鉛を用いた金属錯体と複合化させて赤外線自由電子レーザーを照射すると,亜鉛錯体と複合化させない場合に比べてタンパク質分子の折りたたみ構造の変化が促進されるという現象を見出した(ニュースリリース)。
自由電子レーザーとは,自由電子のビームから電磁場により発生させた放射光を増幅させて取り出す,位相のそろった強力なレーザー。赤外線領域の波長を持つように設定した装置が「赤外線自由電子レーザー(IR-FEL)」であり,強度や波長を対象物質に対応させて調整できる利点がある。
東京理科大学赤外線自由電子レーザー研究センターは,タンパク質の多数の分子が凝集した構造を持つ,いわゆるアミロイドにIR-FELを照射すると,凝集が解消してバラバラになるという現象を見出した。
これは,タンパク質分子を形成している多数のペプチド(アミド)結合に吸収される波長に調整したIR-FELを照射することで,比較的強い力で折り重なっているシート状構造がそのエネルギーにより壊れ,タンパク質分子がバラバラになったと考えられており,アミロイドの蓄積が原因の一つとされているアルツハイマー病などの治療への応用が期待される。
一方,金属錯体と複合化させたタンパク質については,赤外線を照射する研究はこれまでほとんど行なわれてこなかった。赤外線は強度によっては皮膚のコラーゲンにダメージを与えるなど有害である場合があり,赤外線吸収効果を持つ金属複合タンパク質が創製できれば有用となる。
研究グループではすでに,タンパク質分子と同様にアミド結合の構造を持ち,タンパク質と同程度の波長を吸収する金属錯体(亜鉛と有機配位子で構成)をヒト血清アルブミンと複合化させ,IR-FELを照射する研究を実施している。
アルブミンの金属錯体との複合化は,計算科学を用いた理論的検討と実験的検討により成功を確認したが,IR-FELの照射結果としては当初の予想とは逆になり,金属錯体と複合化させたタンパク質のほうが,IR-FELによって二次構造が変化するという結果となった。
今回見出された現象は,例えば病気の原因となるような異常な構造を持つタンパク質を標的として,適切に設計した金属錯体を結合させることで壊すなど,医学的な応用が期待されるとしている。