大阪大学の研究グループは,電荷を持つ粒子を空間的に閉じ込める装置:イオントラップ中に閉じ込められた4個のカルシウム原子イオンの配列中に,振動運動の最小単位に対応するエネルギーのかたまり(振動量子)を1個発生させ,それが配列中を伝わっていく様子を画像化することに成功した(ニュースリリース)。
振動運動は最も基本的な物理現象の一つであり,固体中で音,熱,電気を伝える働きに関わっている。振動運動のエネルギーを極限まで小さくしていくと,それ以上分割できない最小単位に到達する。
この最小単位は振動量子と呼ばれ,一種の粒子のように振る舞う。イオントラップ中の原子イオンも固体のような配列を形成し,この配列の振動運動は振動量子により説明することができる。原子イオンの制御技術の発展により,この振動量子を高度に制御し,情報を担わせて計算を行なうといった研究が視野に入ってきた。
研究グループは,光を用いてイオントラップ中の各原子イオンを独立に操作する技術を確立し,また振動運動の状態を長時間保つことが可能なイオントラップ装置を用いて実験を行なった。
電荷を帯びたカルシウム原子イオン4個をイオントラップにより真空容器中の狭い領域に閉じ込め,レーザー冷却法により絶対零度付近(10万分の1ケルビン程度)まで冷却する。その後,特定の原子イオンに光をあてて振動量子を1個生成する。この振動量子は,温度に換算して1万分の1ケルビン程度のエネルギーを持つ。
そして,ある時間(この時間はゼロから100分の1秒まで変化させる)待つ。この待ち時間の間に,振動量子はクーロン力の影響で4個の原子イオンの間を飛び移りながら移動する。最後に,全ての原子イオンに光をあてて,各原子イオンの位置における振動量子の存在確率を測定する。
測定した各原子イオンの位置における振動量子の存在確率を濃淡で示すと,時間軸上で全原子イオンにわたって存在確率の複雑なパターンが形成され,それが理論予測とよく対応していることがわかった。
この研究により,振動量子がこれまで量子情報処理の研究に用いられてきた量子ビットや光子と同様に高い制御性・再現性を持っていることが示された。
今回,イオントラップ中の特定の原子イオンに振動量子を生成し,それを長時間自由に運動させたうえで,原子イオンごとに独立に振動量子の存在確率を測定することが可能になった。
振動量子は,一つの自由度で量子ビットよりも大きな情報量を担うことができるため,より少ない資源で複雑な計算,精度の高い計算が可能となり,量子コンピューティング・量子情報処理の可能性を広げるとしている。