理化学研究所(理研),東京大学,島津製作所,国土交通省,大阪工業大学の研究グループは,18桁精度の超高精度な可搬型光格子時計を開発した(ニュースリリース)。
一般相対性理論による時間の遅れを用いて高低差を求めようとするとき,これまでは最高性能のセシウム原子時計(16桁精度)を使っても,数日測定を続けてやっと10mの高低差を観測できる程度だった。このため,相対論的効果で標高計測を行なうことの(他の測量手法に対する)優位性を見いだすことは困難だった。
今回,研究グループは,東京スカイツリーの地上階と地上450mの展望台に設置した2台の時計の進み方の違いを測定し,この結果を国土交通省が測定した標高差と比較することで,一般相対性理論を従来の衛星を使った実験に迫る精度で検証することに成功した。
原子時計を人工衛星やロケットに搭載して,宇宙空間と地表の間で約1万kmの高低差をつけることで測定された従来の宇宙実験に比べて,今回開発した可搬型光格子時計を使うことで,1万倍以上少ない高低差で,同等の実験が可能になった。
一般相対論的効果の多くは「宇宙スケール」の現象として議論されてきたが,18桁精度の原子時計では,わずか数cmの「日常的なスケール」の高さの違いで時間の遅れが観測できる。今回,展望台の時計が地上階の時計よりも相対周波数がΔν/ν=(49,337.8±4.3)×10-18だけ高い(時間が早く進んでいる)ことが計測された。
これにより,従来の技術の範疇では考えられることのなかった,新たな「相対論的センシング技術」が実証された。これまで実験室環境で実証されてきた超高精度な光格子時計の小型化・可搬化と今回の実験室外運転の実証は,この「相対論的センシング技術」の実用化に向けた大きな突破口となるという。
このような高精度な可搬型光格子時計を使えば,GNSS(全球測位衛星システム)測量では検出が困難な数cm精度のプレート運動や火山活動による地殻の上下変動の監視や,数時間から数年という時間スケールで起こる地殻変動(標高変化)を精密に観測できるようになる。
また,GNSSや高感度重力計と補完的に利用できる超高精度な標高差計測・測位システムの確立や,地下資源探査,地下空洞,マグマ溜まりの検出など,光格子時計は将来の社会基盤となる可能性を秘めているとする。
研究グループでは今後,光格子時計の実用化に向けて,さらなる時計の小型化,可搬化が加速され,新たな測地技術への応用が期待されるとしている。
この実験と研究の詳細はインタビュー「相対性理論を証明する ─いま最も精密な時を測る光格子時計の実力とは?」に詳しい