東北大学の研究グループが,アフリカで栽培されているイネ15品種の太陽紫外線UVB抵抗性を調査したところ,UVBによって誘発されるDNAの傷を修復する酵素(光回復酵素)が,アジアのイネには見られない固有のアミノ酸配列を有し,その配列が結果として,アフリカ栽培イネが UVBに弱い形質を示す原因となっていることを突き止めた(ニュースリリース)。
アフリカで栽培されているイネ品種は,アジアで栽培されるイネ(オリザ サティバ)とは異なり,アフリカ固有のアフリカ西部地域に自生した野生イネ,オリザ グラベリーマから栽培化されたもので,アフリカという独特な環境に適応し,様々な環境ストレスに強い形質を示すことが知られており,また近年では,アフリカイネは,様々な環境ストレス耐性に関わる遺伝資源の宝庫として着目されている。
したがって,生物にとって有害な太陽紫外線UVB量が高い地域で栽培されているアフリカ固有のイネ品種は,太陽紫外線UVBに対しても強い抵抗性を示すと考えられていたが,その詳細は不明だった。
そこで,研究グループは,植物の太陽紫外線UVBによる障害とUVBに対する耐性機構を明らかにする研究プロジェクトの一つとして,アフリカ栽培イネに着目し,アフリカ各地で現在栽培されているイネ15品種のUVB抵抗性を調査した。
その結果,意外にも調査した大部分のイネ品種は,アジア各地で栽培されているイネ品種よりもUVB抵抗性が大変弱いことが判明した。その原因を調べたところ,UVBによって誘発されるDNA損傷(シクロブタン型ピリミジン二量体:皮膚がんの原因となるDNA損傷の一つ)を修復する酵素(光回復酵素)が,アジアのイネ品種には見られない固有のアミノ酸配列を有していることがわかった。
イネの光回復酵素は,およそ506個のアミノ酸から構成されているが,オリザ グラベリーマを起源とするアフリカ栽培イネは,アジアのイネ品種と比較して78番目のアミノ酸がプロリン(P)からセリン(S)に,また283番目のアミノ酸がグルタミン(G)からアラニン(A)に変異していた。
これらの変異の内,特に283番目のアミノ酸の変異は酵素がDNA損傷と結合する活性を低下させ,結果としてDNA損傷を修復する効率が悪くなり,そのことが原因でアフリカイネはUVBに弱い形質を示すことを発見した。
この研究成果は,アフリカにおいて深刻な社会問題となっている穀類の生産性向上に向けた育種,品種開発の新たな方向性を提示することが期待されるとしている。