京都工芸繊維大学の研究グループは,無極性配向したウルツ鉱型窒化アルミニウム(AlN)系微結晶薄膜をガラス基板上に形成する技術を開発した(ニュースリリース)。
ウルツ鉱型窒化アルミニウム(AlN)は,青色の発光ダイオード(LED)で有名な窒化ガリウム(GaN),窒化インジウム(InN)と同じ,窒化物半導体のひとつ。AlNを使うと,深紫外域の光を放つLEDを作製できると考えられている。
殺菌光源である水銀ランプを,消費電力が小さく,寿命が長く,さらに光源自体を非常に小さくできるLEDで置き換えようと,日本や世界各国で AlN系深紫外LEDの開発が行なわれている。
しかし,AlNには,LEDを作るために薄膜にしたとき,Al原子とN原子のペアが薄膜面に垂直に並ぶ,“極性配向”という原子配列に起因する,いくつかの問題が発生することがわかってきた。
解決法は,Al原子とN原子のペアを薄膜面内方向に並べる,“無極性配向”という原子配列にすることだが,純粋なAlNを無極性配向膜にするには,非常に高度な技術や高価な基板が必要だった。
研究グループは,2018年に,ありふれた金属である鉄(Fe)をAlNに添加すると,ガラス基板など安価な基板上で無極性配向することを発見した。このFe添加AlN(AlFeN)薄膜は,スパッタ法で再現性よく合成できる。
そのため,当初,ガラス基板上にこの無極性配向AlFeNを形成し,これをシード(種)としてAlNを成長させれば,無極性配向高効率LEDの実現につながると考えたという。しかし,その後の実験で,AlN中のFeは可視光吸収やキャリアの捕捉など,LEDの効率を低下させる可能性の高い電子状態を作ることがわかってきた。
そこで,Feの脱離を目的にAlFeN膜に対して熱処理を行なったところ,無極性配向を保ったままFeを取り除き,その結果,Feが作り出した電子状態を非常に小さくできることを発見した。
この成果は,AlN系深紫外LEDを高効率で発光させ,かつ,安価に作るため,AlN特有の原子配列に起因する問題の解決に必要な特殊な“種”を,簡単に,しかも,ガラスなどの安価な基板上にも形成できる方法を開発した。
今後はこの“種”を大きく成長させる技術を開発し,医療や衛生分野で期待されている高効率AlN系深紫外LEDの実現に寄与したいとしている。