産業技術総合研究所(産総研),東芝マテリアル,東レエンジニアリング,林テレンプの研究グループは,可視光から近赤外光にわたる遮光性を備えた調光デバイスの大面積作製法を開発した(ニュースリリース)。
調光窓の主な工業的プロセスとしてマグネトロンスパッタ法が用いられているが,大規模な真空装置が必要で,高コストになる。それに対し産総研は,調光材料の一つとしてプルシアンブルー型錯体ナノ粒子に着目して研究を行なってきた。
しかし,調光窓へ適用する場合,プルシアンブルー型錯体ナノ粒子のみからなる調光デバイスでは,透明時と遮光時のコントラストが不十分で,熱の出入りに関わる近赤外光を制御することができなかった。
そこで研究グループは,可視光に加えて近赤外光に対しても遮光性を示す酸化タングステンナノ粒子を用いた第2の調光層を加えた。
大面積のガラス基材上にインクを塗布するため,スリットコーターを使用できるように各ナノ粒子からなるインクを合成し,最適化した。これにより,G2サイズ(370mm×470mm)への塗布が実現した。
開発した調光デバイスの構造は透明基材/透明電極/調光層1/電解質/調光層2/透明電極/透明基材となっている。プルシアンブルー型錯体ナノ粒子からなるインクを塗布したガラスと,酸化タングステンナノ粒子からなるインクを塗布したガラスを,電解質を介して貼り合わせる。
それぞれの塗布は常温常圧下で行なえる。また,スリットコーターを用いた場合,G2サイズの基材1枚当たりの成膜速度は5~20秒で,たとえば膜厚1µmを狙って成膜を行なった場合,全面にわたる膜厚のばらつきは3%以下だった。また,材料の使用効率は99%以上を達成した。
2つの透明電極間に+1.2Vの電圧をかけると,無色透明から濃紺色に変化した。逆に-0.8Vの電圧をかけると濃紺色から無色透明に戻った。さらに,デバイスの封止構造や電解質,ならびに組み立て工程を開発することで,大面積調光デバイス化が実現した。また,専用の電源により,1.5Vの電圧でG2サイズの調光デバイスの光学特性を切り替えることができるようになった。
100mm×100mmのデバイスでは,電圧をかけてから5秒程度で,可視光透過率は77%から55%に,日射透過率は57%から26%となった。太陽光に含まれる可視光の透過率をある程度保ったまま,近赤外光(熱線)を選択的に遮蔽できる。さらに,60秒程度で,可視光透過率は1.8%に,日射透過率は1.6%になった。
このように,調光デバイスは電圧と電圧をかける時間を変えることによって光学特性をコントロールできる。この技術は,柔軟性のある樹脂フィルムへの塗布も適用可能としている。