大阪市立大学の研究グループは,胃漿膜表面(腹膜)から腫瘍細胞までの距離(DIFS)測定が,胃癌患者の腹膜播種再発の予測に有用であることを明らかにした(ニュースリリース)。
胃癌は,日本の癌死亡者数の第3位と高頻度で,5年生存率は約60%の悪性度の高い癌となる。胃癌の死因は,手術後の再発が大きく影響する。再発のなかでも,癌細胞が腹膜腔に散らばる腹膜播種再発が最も多く,胃癌再発の約40%を占める。
癌細胞が腹膜腔に露出遊離している胃癌(T4胃癌)に腹膜播種再発が多いが,癌が腹膜腔に露出していない胃癌(主にT3胃癌)でも,腹膜播種再発を起こすことが少なからずある。今回,T3胃癌のどの因子が,腹膜播種再発に影響するか検討した。
胃癌根治手術を行なった患者の中から,T3胃癌患者96名を抽出し検討したところ,16名が腹膜播種再発した。高性能顕微鏡を使ってμmレベルで測定を行なうなど,様々な因子を調べたところ,胃漿膜表面(腹膜)から癌細胞までの距離(DIFS)が腹膜再発と深く関連していることが分かった(腹膜播種再発患者の平均DIFSは156μm,再発していない患者の平均DIFSは360μm)。
特に,234μmを境にDIFSが234μmより短い胃癌患者は,明らかに腹膜播種再発を起こす頻度が高く,予後が不良だった。この検証結果より,腹膜播種再発のリスク値は234μmであることが分かった。
腹膜から腫瘍の距離に着目しリスク基準数値を発見したのは,この研究が初めてとなる。わずか1分程度でDIFS測定が可能であり,根治手術を行なった胃癌患者のDIFS測定値が234μmより短い胃癌患者に対して,再発予防のためにより強力な抗がん剤の投与を行なうなど,手術後の治療方針に役立つ可能性があるという。また手術後に早めの測定を行ない,治療方針を決めることで腹膜播種再発を回避できることが期待されるとしている。