東京大学の研究グループは,流体中に浮遊する直径1μm以下の微粒子について,粒子を構成する物質の複素屈折率と粒径別数濃度を,両方とも同時にかつ正確に自動測定できる手法を考案・実証した(ニュースリリース)。
近年,光学顕微鏡では観察できない直径数μm未満の微小粒子(あるいは微小気泡)を正確に自動測定するための方法が,機能性ナノ粒子やファインバブルなどの産業応用研究,空気・水・飲料・医薬品の精製,生体医療検査,大気・海洋に拡散する汚染微粒子の観測など,幅広い科学技術分野から必要とされている。
これまで,粒子を構成する物質を同定するためには,多くの場合,前処理として流体試料から粒子を抽出し,抽出後の粒子試料に対して元素分析・化学構造解析を行なう必要があった。一方,流体中の微粒子の粒径別数濃度を乱すことなく測るためには,レーザー光散乱法など,物質の判別能を持たない非接触測定法を使う以外に方法がなかった。
さらに,「粒子を構成する物質の同定」と「粒径別数濃度の測定」の両方を同時に実施できる,単一の測定原理もなかった。このため,一般に複数の異なる未知の粒子種が未知の粒径分布で共存している流体試料(例えば大気や海水)について,正確かつ自動的な測定を実施することはほぼ不可能であった。
この研究では,流体中の粒子がレーザー光線のビームウエストを横断するときに生じる散乱波の振幅と位相を検出する方法(イタリアの物理学者が2006年に発明)の独自改良型と,散乱波の振幅と位相のデータから粒子の特徴を推定する逆解析法を組み合わせることで,「粒子の構成物質の同定」と「粒径別数濃度の測定」の両方を同時に実施できる単一の測定原理を初めて実現した。
開発した逆解析法は,形状が未知の粒子にも対応する工夫を施しており,球形粒子に限らず非球形粒子に対しても正確な測定ができる。この手法では,各物質に固有の電気的物性値である複素屈折率の実部・虚部を正確に測定できるため,構成物質を推定可能となる。
また,複素屈折率が固有の粒子群ごとに,粒径別数濃度を決定することができる。現試作装置で測定可能な粒径範囲はおおよそ0.2~1.0μm。流体媒質の必要条件は,媒質が入射波の波長の光に対してほぼ透明であることのみで,波長をそのように選びさえすれば,空気・水・有機溶媒いずれに対しても適用できるという。
この微粒子測定法は,単純な装置構成で製作費が安く,目的に応じた改造・拡張もしやすい。また,試料の前処理が要らず,クリーンな非破壊分析であるため,他の分析装置を直列接続する複合分析や,血液など生体試料の計測にも利用でき,産業や医療の技術への応用が期待されるとしている。