名古屋大学,東北大学,韓国・延世大学の研究グループは,ヘテロ元素の挿入という独自の分子設計指針に基づき,外部からの刺激に鋭敏に応答する新規曲面π共役分子の合成に成功した(ニュースリリース)。
ベンゼンやナフタレンに代表される平面π共役分子は,プラスチックや医薬品,液晶,有機ELといった身の回りの様々な有用物質として広く社会で利用されている。
これらは蜂の巣を切り出したような平面構造により高い剛直性を示し,結果として,これらの分子を構成単位とする材料もまた高い堅牢性を示す。
一方,近年では曲面構造を有するπ共役分子が高い柔軟性といった特異な機能を示すことが明らかとなり,機能性液晶や環境応答性材料といった次世代型スマートマテリアルの構成素子として期待されている。
しかし現行の曲面π共役分子の設計指針はフラーレンやカーボンナノチューブなどの曲面構造をもつ炭素材料の部分構造を切り出すという考えのもとで合成されたものであるため,多様性の拡張には新指針の確立が求められる。
今回,研究グループは,平面π共役分子の1つであるペリレンビスイミドに着目し,「ヘテロ元素の挿入」という独自の設計戦略を適用させることで,窒素挿入型ペリレンビスイミドを新たに設計・合成した。得られた分子は電場の印加や光学活性化合物の添加などの外部刺激に対して鋭敏に応答し,その構造を変化させることがわかった。
これまで,曲面π共役分子はその特異な性質から,次世代型スマートマテリアルの構成要素として期待されていた。しかし,現行の分子設計指針のみでは設計の幅に限りがあり,より一般性の高い指針の確立が求められていた。
今回の成果は,「ヘテロ元素の挿入」という視点が新規曲面π共役分子の設計に効果的であることを示唆しているという。また,この指針は本質的にほぼ全てのπ共役分子に適用できることから,多彩な物質群の創出に繋がるとしている。