金沢大ら,細胞表面でナノスケールpH可視化に成功

金沢大学,英インペリアル・カレッジ・ロンドン,富山大学の研究グループは,ナノスケールのpHセンサーを独自に開発し,胃酸放出細胞やがん細胞表面でのナノスケールのpHイメージングに成功した(ニュースリリース)。

生体内の細胞は,細胞固有の細胞外微小環境に取り囲まれており,細胞が生きていく上では,この細胞外微小環境を中性に保つことが必要となる。細胞内で腫瘍や炎症が生じると細胞外微小環境が酸性化するなど,pHの異常はさまざまな疾患につながる。そのため,細胞外微小環境での細胞外pH(pHe)の測定は,細胞の機能調整とpHの関係を理解するために重要となる。

しかし,これまで一般的に用いられているpHプローブでは,分解能や反応速度などの課題があり,pHeの定量化が困難だった。

そこで,研究グループは,pH感受性の膜をナノスケールのガラスピペットに修飾したナノピペット型pHセンサーを独自に開発し,pHe を単一細胞レベルかつ非標識でイメージングした。

pH感受性の膜は,ポリ-L-リジン/グルコースオキシダーゼ(PLL/GOx)の混合物をグルタルアルデヒドで架橋することで形成した。この膜は,PLLの正に帯電した第4級アミンと,GOxの負に帯電したカルボン酸残基により,双性イオンポリマー膜として振る舞い,pHに依存して電荷が効率的に変化する。

この電荷の変化に依存してナノピペット型pHセンサーで計測される電流や電位が変化することで,この変化からpHを計測することができる。開発したナノピペット型pHセンサーは,2mm秒の応答時間,50nmの空間分解能,pHを0.01 ユニットの感度で計測できる世界最速の応答速度を示した。

そこで,このナノピペット型pHセンサーを試料近傍に配置して,pHe計測を行なったところ,胃酸を放出する壁細胞からの胃酸放出の計測や,藻類の光合成や呼吸に伴うpHeの変化を計測することに成功した。

さらに,このナノピペット型pHセンサーは,pHeを計測するだけでなく,走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)の計測原理を適用することで,細胞表面の形状を超解像度レベルで同時に取得することが可能となる。実際に,がん細胞表面のpHeプロファイルを3次元的に可視化することに成功した。

細胞外酸性pHは,がん細胞の浸潤と移動を促進し,治療の障壁となっている。開発したナノピペット型pHセンサーをSICMに応用したSICM-pHナノピペットセンサー技術により,単一細胞レベルでpHeの3Dマッピングが可能になるという。

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