東工大ら,「温めると縮む」材料に新知見

東京工業大学らの研究グループは,ニッケル酸ビスマス(BiNiO3)と鉄酸ビスマス(BiFeO3)の固溶体において,金属間電荷移動と極性−非極性転移という2つの異なるメカニズムが同時に起こることによって,温めると縮むという負熱膨張が増強されることを発見した(ニュースリリース)。

負熱膨張材料は,光通信や半導体製造装置など精密な位置決めが求められる局面で,構造材の熱膨張を打ち消した(キャンセルした)ゼロ熱膨張物質を作製するのに使われる。

研究グループはすでに,ニッケル酸ビスマスと鉄酸ビスマスの固溶体「BiNi1-xFexO3」が,金属間電荷移動によって巨大な負熱膨張を示す事を発見している

この研究では,鉄置換の量を増やした場合の結晶構造と電子状態の変化をさらに詳細に解析した。上記と同じ固溶体を作成し,第二高調波発生,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL02B2での放射光X線回折実験,BL22XUでの放射光X線全散乱データPDF解析,そしてBL09XUでの硬X線光電子分光実験を組み合わせて,解析を行なった。

この解析の結果,0.05≤x≤0.15(xは鉄置換量)では,ビスマスとニッケル間の電荷移動による負熱膨張のみが観測された。一方,0.20≤x≤0.50では,PbTiO3と同様の,極性から非極性の結晶構造転移が電荷移動と同時に起こっており,そのために負熱膨張が増強されていることがわかった。

BiNi1-xFexO3の鉄置換では,低温で2価が安定なニッケルを,3価が安定な鉄で置換するため,鉄置換量が増えるのに伴って,電荷移動に寄与する低温相のNi2+の量は減少する。

このため,低温相から高温相へ変化する場合の体積収縮の割合は,x=0.05で2.8%であるのに対し,x=0.15では2.5%と減少する。この減少ペースでいくと,x=1.0では負熱膨張による体積収縮が消失することが予測される。

しかし実際には,0.20≤x≤0.50では極性−非極性転移が電荷移動と同時に起こるため,負熱膨張が増強され,鉄置換量が増えても体積収縮は2%と一定であった。鉄置換量を変化させても体積収縮の割合が変化しないことは,負熱膨張材料の特性が安定することを意味するという。

今回の成果では,単一の材料で,電荷移動と極性−非極性構造転移という異なるメカニズムでの負熱膨張が同時に実現し,それによって負熱膨張が増強することが確かめられた。複数のメカニズムを組み合わせることの有用性が示されたことで,今後の負熱膨張材料の設計指針構築につながると期待されるとしている。

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