国立天文台らの研究グループは,174個のコンパクトなC18O天体,すなわち星のたまごとなる分子雲コアを検出することに成功した(ニュースリリース)。
我々の銀河を構成する星々は,主に水素分子ガスにて構成されるガスの塊である「分子雲コア」と呼ばれる天体が,重力収縮することによって形成されることが知られている。
これまで,太陽系の近傍にある中小質量星形成領域の電波や可視光での観測によって,多数の分子雲コアが発見されている。一方で,銀河の星々の重要な供給源である星団形成領域における分子雲コアは,天体までの距離が中小質量星形成領域と比べて遠いために観測が難しく,その物理的性質はこれまであまり明らかにされていなかった。
そこで研究グループでは,野辺山45m望遠鏡とその主力観測装置であるFOREST受信機を用いて,「はくちょう座X巨大分子雲複合体」をターゲットとした大規模な掃天観測を実施した。この領域は,銀河系最大級の星形成領域であるとともに,太陽系から最も近傍にある大規模な星団形成の現場として知られており,分子雲コアを電波望遠鏡で検出するために最適な天体となる。
研究グループはこれまでに,低温分子ガスの指標として代表的な4つの分子輝線の観測を行ない,9平方度もの広大な天域に対して,過去に例のない高感度での掃天観測を実現した。
観測された分子輝線のうち,一酸化炭素の同位体分子であるC18O分子は,分子雲コアを効率的に反映することが知られている。そのためこの研究では,C18O分子の観測データを用いて分子雲コアの同定を行ない,その物理的性質を調査した。
観測データの解析の結果,撮像領域から174個もの分子雲コアを同定することに成功した。これは,1つの星団形成領域における分子雲コアのサンプルとしては,最大級のものだという。
同時に天体内部の解析から,ほとんどの分子雲コアが自己重力によって強く束縛されていることがわかった。これは,検出された分子雲コアの多くが大質量星や星団に進化することを示している。
さらに,この研究で検出された分子雲コアの質量関数は,小質量星も含んだ銀河系の星で得られている初期質量関数の特徴と一致することがわかった。これは,星団形成領域での大質量星や星団の活動が,銀河における主要な星の供給源であるという説を支持する重要な証拠だという。
今後,より高感度な観測を行なうことで,さらに低質量の分子雲コアを検出できれば,星団形成領域における分子雲コアと,天の川銀河に属する星々の統計的性質との関連を精密に調査できるとしている。