熊本大学とヤマト科学は,細胞培養中のウェルプレート毎の培養状態(代謝)をリアルタイム,かつ一括でモニタリングできるマイクロプレートリーダーを,細胞培養装置(CO2インキュベータ)内に実装し,実用することに成功した。この装置にはウシオ電機の空間フィルタ技術「SOT®」が搭載されている(ニュースリリース)。
医療や創薬の分野において,培養細胞の状態管理は重要視されている。例えば,再生医療においては,iPS細胞などの幹細胞を目的の細胞へと分化誘導する際(あるいは未分化を維持する際),培養容器中の細胞全体(群)の状態を把握する必要がある。また,創薬やバイオ分野においては,高精度かつ効率的なスクリーニングのために培養細胞群の条件統一が求められる。
従来,これらの細胞品質管理には,顕微鏡を用いた形態評価や,分光光度計による吸光度測定・濁度の測定,細胞培養技術者による培地の色変化をもとにした判断などが行なわれてきたが,細胞の状態を把握するたびにCO2インキュベータから細胞サンプルを移動させる操作が必要となり,不純物混入の要因となっていた。また,これらの作業を技術者の経験に依存することや,人為的ミスによる細胞の汚染,品質の不均質性などさまざまな課題があった。
この装置は,培地や細胞をCO2インキュベータから移動させずに,細胞の代謝をリアルタイムにモニタリングでき,6~96ウェルプレートの個々のウェルをほぼ同時にモニタリング可能。また,ウシオ電機の空間フィルタ技術である「SOT(Silicone Optical Technology)」を採用した光学検出装置を内蔵した。
SOTは,ウシオ電機と九州大学が共同で開発した,光学系部分を特殊な加工を施したシリコーン樹脂で形成した空間フィルタ技術。直進光だけを取り出すことができ,コンパクト,低コスト,かつ非常に高い迷光除去を実現する。
このSOTを用いた光学モジュールは,紫外光から可視光の波長域において高い透過性,低い複屈折など優れた光学特性を持ち,さらに,自家蛍光が少なく,高耐熱,耐薬品性,耐候性に優れ,ガラスなどを用いた従来の光学系に比べ小型高性能化が実現できるという。
さらに,この装置は培養容器の移動や蓋の開放作業が不要なため,培地の汚染や感染のリスクを最小化し,培養環境を変化させずに測定ができる。移動による細胞へのシェアストレス低減が期待できる。再生医療のほか,細胞を扱うあらゆる研究や産業に展開可能という。
なお,この装置は2019年9月4日~6日に幕張メッセ国際展示場で開催される「JASIS2019」において詳細な技術説明を行なうとしている。