京都大学,大阪大学,大阪産業大学,高輝度光科学研究センター(JASRI)は,鉄鋼材料の凝固過程において体心立方構造から面心立方構造への固相の変態が起こり,温度の条件によりこの変態がデンドライトの分断を誘発することを,大型放射光施設SPring-8の放射光を利用したX線イメージング実験により実証した(ニュースリリース)。
鉄鋼材料の炭素鋼は社会基盤を支える材料で,生産性や材料特性の向上は社会全体に波及する。これまで0.5wt%(質量パーセント濃度)炭素以下の鋼の凝固過程は,フェライトと呼ばれる体心立方構造の固相と液相の反応によりオーステナイトと呼ばれる面心立方構造の固相が生成する「包晶反応」(金属合金などが凝固するときに起こる反応)が起こると考えられてきた。
したがって,包晶反応を前提として材料組織や鋳造欠陥の形成メカニズムが議論されてきたが融点が1500℃付近である炭素鋼を材料組織スケールで観察することが困難であったため,未解明の課題もあった。
研究グループは,炭素鋼の凝固過程をリアルタイムで観察する技術を開発し,SPring-8のイメージングビームラインにおいて「時間分解その場観察」を実施した。
厚さ100µmの試料を透過するX線の吸収量を明暗にした吸収イメージングにより,融液からフェライト,オーステナイトがどのように成長するかを直接観察し,マッシブ的変態(合金において組成の変化なく異なる結晶構造への変態)がデンドライト組織に影響することと,その影響を与える条件を明らかにした。
研究グループ今後,この発見を製造プロセスや材料特性の向上に結びつけることを目指して研究を進めるとしている。