東京大学の研究グループは,絶縁体のSiO2膜上でナノ粒子内のヘテロ構造(異種接合)の原子分解能STEM観察や組成マッピングを実施し,三元系Co6W6Cナノ粒子の高温反応による構造進化の過程を可視化することに成功した(ニュースリリース)。
大きさが数nmの小さなナノ材料の合成や物性評価は,ICチップの材料になるシリコンウエハー,セラミックス等のバルク基板上で実施されている。しかし,ナノ材料の詳細な構造を透過型電子顕微鏡法(TEM)や走査型透過電子顕微鏡法(STEM)で観察するためには,通常は試料に加工を施す必要があり,観察したい元の形状と構造がこの前処理によって変化してしまう可能性があった。
今回,研究グループは,特定の単層カーボンナノチューブ(CNT)が成長するナノ材料に着目し,大きさが10nm以下のCo-W-C三元系触媒ナノ粒子について,合成から構造解析までの一貫した研究調査を実施した。
その結果,シリコンウエハーに形成した絶縁体の二酸化ケイ素(SiO2)膜上にこの触媒ナノ粒子を作製することで,観察のための試料加工を施すことなく,反応前後の触媒を原子スケールで構造解析することに成功した。
今回シリコンウエハー酸化膜(Si/SiO2)の MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加工によって特別に作製された Si/SiO2TEMグリッドを採用した。これは,金属製メッシュに薄い導電性カーボン膜を貼った従来のTEMグリッドとは異なるもの。
Si/SiO2TEMグリッドのSiO2膜の厚さは20nm。Co-W-C三元系触媒ナノ粒子はこのSiO2膜上の全体で均一に担持されている。SiO2は高温で安定であることから,従来のTEMグリッドでは不可能な触媒の合成・反応・観察の全ての実験が可能になる。
これにより,高分解能なSTEM観察と高感度なエネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成マッピングを高度に組み合わせ,かつ単層CNT 成長が起こる高温反応の前後を逐次観察する手法を確立したという。
今回の実験により,単層CNTが生成し始める反応過程において,触媒が炭化物Co6W6Cから金属Co(コバルト)へと相変化していることを明らかにできた。Si/SiO2上のCo-W-C系ナノ粒子は,特定構造を有する単層CNTの成長に適した触媒構造へと構造進化していることになる。
研究グループは,この研究は単層CNT触媒の新しい構造進化モデルとして学界に提案されるものであり,他のナノ材料,デバイス合成および触媒反応における,多くの物質の高温反応メカニズムの解明にも適用可能な用途の広い技術であるとしている。