大阪府立大学,滋賀県立大学の研究グループは,酸化亜鉛(ZnO)の光学特性を説明する新たな理論を開発し,高品質な結晶を検証することにより,室温で熱散逸が始まるより短い時間で光が放射される高速光現象を世界で初めて確認した(ニュースリリース)。
ZnOは,窒化ガリウム(GaN)などと同程度のバンドギャップを持ち,青色の発光ダイオード,紫外光の半導体レーザー,紫外光を吸収する太陽電池材料など,多岐に渡る応用の可能性が高く注目を集めている。
このような材料の光学過程(光を吸収し,再び放射する過程)を高速化することは,熱損失のないエネルギー効率の高い光学素子を実現する上で重要な課題。しかし,これまで高速化への明確な指導原理がなく,通常,吸収したエネルギーを光として放射するには速くとも数10ps以上かかると考えられていた。
今回,研究グループは,ZnOの光学特性を説明する新理論の開発,及び,その実験実証を行なった。固体中の原子や分子は双極子アンテナの役割をして光を吸収し,そのエネルギーを再び放射する。このアンテナの空間的広がりの大きさが光放射の速さや効率,すなわち発光素子としての性能を決める。
研究グループによる新理論では,これらのミクロなアンテナが振動を揃えて特殊な(多極子状の)マクロアンテナを形成し,さらにZnOでは二重の励起子帯による双子のアンテナが相乗した結果,結晶全体に広がった巨大なアンテナを形成することを予言した。そして,実験では,そのような条件が実現する高品質な試料を用いて放射寿命を測定し,精密な解析を行なった結果,10fs台の超高速な放射が起こっていることを実証したという。
研究グループは,今回実証された放射時間は従来に比べて3桁も高速で,また,室温での熱散逸をも凌ぐ速さであるため,熱発生のない(サーマルフリーな),次世代の超低エネルギー消費型の光学素子に応用できる可能性があるとしている。