早稲田大学らは,「光トリガー相転移」という結晶の新しい構造相転移現象を発見した(ニュースリリース)。
物質が固体状態を維持したまま結晶構造が変化する「構造相転移」は,温度や圧力,電磁場や光といった外部刺激によって起こる。構造相転移現象が生じるにともなって電気的・磁気的・光学的な特性が大きく変わる材料は,メモリー,スイッチなどに広く用いられている。また,材料探索のみならず機構解明の観点からも研究が進められてきた。
今回,研究グループは,構造相転移する光反応性結晶に,その相転移温度よりも低い温度で光を照射すると,同じ相転移が起きる「光トリガー相転移」現象を発見した。この光トリガー相転移は、光異性化反応で生成した分子により生じるひずみによって発現することがわかった。
今回の実験では,キラルサリチリデンアミン結晶を用いた。この結晶は加熱すると,約40℃で低温側の結晶構造(低温相)から高温側の結晶構造(高温相)に単結晶状態を保ったまま変化する。次に,温度を下げると元の低温相に戻るという可逆的な構造相転移を生じる。また,この結晶には光反応性がある。
キラルサリチリデンアミン分子のエノール体は安定しているが,この結晶の分子は紫外光を照射すると光異性化によってエノール体がトランス−ケト体に変化する。この光異性化にともない,結晶の色も黄色から橙色へ変化する。この結晶の分子のトランス−ケト体はエノール体よりも不安定なため,紫外光を止めると数分で安定なエノール体に戻り,結晶の見た目も元の黄色に戻る。
この結晶に構造相転移が生じる温度よりも低い温度(マイナス50℃)で紫外光を照射したところ,熱的な構造相転移と同じ現象が起きることがX線結晶構造解析からわかり,研究グループはこの現象を「光トリガー相転移」と名付けた。光異性化が結晶表面のごく一部の分子でしか起きていないにもかかわらず,この光トリガー相転移においては結晶全体の構造が変化する点が特長的となる。
なお,光によって相転移が起こる現象として「光誘起相転移」は以前からよく知られているが,その機構は分子の励起状態が相転移を引き起こす点で,今回の「光トリガー相転移」とは異なる。研究グループは,光応答性結晶材料として光トリガー相転移結晶を用いることにより,光によって操作できるセンシングやスイッチング,メモリー,アクチュエーターの開発につながる可能性があるとしている。