名古屋大学は,環境中の微生物によるカーボンナノチューブ(CNT)の生分解性(生体内や環境中で,物質が生物の作用によって分解される性質)について,日本ゼオンらとの共同研究を開始した(ニュースリリース)。
CNTは炭素を構成元素とした,直径がナノメートルサイズのチューブ状の素材であり,髪の毛の5万分の1の細さ。優れた熱,電気,力学特性を示し,化学的にも極めて安定な物質であることから,エレクトロニクス,エネルギー等,幅広い分野にわたって社会に大きな便益をもたらすことが期待されている。日本ゼオンは,化学気相成長法の一種であるスーパーグロース法を用いたSGCNT(単層カーボンナノチューブ)の量産工場を建設し,2015年から稼働している。
その一方,CNTが環境中に放出された場合の影響は充分に解明されておらず,対応策の策定が産業化の大きな課題となっている。2017年度には,日本ゼオンらの研究により,SGCNTが肺のマクロファージや肝臓のクッパー細胞等の免疫細胞に貪食され,酸化酵素の作用により生分解されることが示された。
他方,環境中での生分解性については,活性汚泥法による分解試験により評価させることが通常であるが,炭素を主体とするCNTは一般には無機物とみなされ,これを生分解する微生物は存在しないとされ,CNTを含む廃液は水分を蒸発,固化させて焼却する方法が採用されている。
しかし,今後SGCNTの応用が進み,量産が行なわれるようになると,このようなコストと時間のかかる廃液管理策には量的な限界が生じるとされてきた。研究グループは,SGCNTを用い,環境中や活性汚泥中で,単層CNTが微生物によって分解されるかどうかを調査し,分解された場合はそのメカニズムや条件を解明していくという。さらに,研究の成果をふまえ,製造,販売,使用,廃棄の全ライフサイクルにおける環境管理手法を検討していく計画とする。
CNTをはじめとするナノマテリアルは,優れた物性を有し,今後ますます実用化・産業化が期待される素材。研究グループは,早い段階で健康や生態系への安全性・影響をきちんと評価することが極めて重要であると考え,研究を進めていくとしている。