九州工業大学は,有機ラジカル結晶で 30K(ケルビン)級の強磁性体の実現に成功した(ニュースリリース)。
有機ラジカル結晶は20世紀後半に非常に活発に研究され,20世紀末には非常に多くの有機強磁性体が合成されたが,それらの強磁性転移温度の多くは1K以下であり,稀に重元素を導入したもので強磁性を示すものでも17Kが最高だった。
今回,研究グループは,1分子にSe原子を4つ含み,大気圧下で11Kの強磁性転移温度を有する有機ラジカル結晶を等方的に圧縮し,2万気圧の高圧力下で強磁性転移温度を27.5Kまで上昇させることに成功した。またその状態がすべての磁性の種(スピン)が同じ方向を向いた理想的な強磁性状態であることを突き止めた。
今回の研究で研究グループは,有限の直流磁場を印加した状態で強磁性転移温度より高温から試料を冷却した。また,超伝導量子干渉素子と接続された超伝導製磁気検出コイルを168Hzで振動させ,「検出コイルを貫く磁束が周期的に変化する様子」を交流電圧信号に変換し,さらにロックイン検出することでノイズ信号と分離させ,「磁化」の情報を高精度に検出した。
大気圧(0GPa)下では,13K付近に強磁性状態を示唆する磁化の急激な上昇が観測されるが,2.1GPaの高圧下では最低温度での磁化の大きさをそのままに磁化の立ち上る温度(強磁性転移温度)が28K付近にまで上昇する。しかし,さらに圧力を印加すると最低温度での磁化の大きさも強磁性転移温度も減少する。
2.1GPaでの磁化の温度変化は強磁性秩序の平均場計算で良く再現され,すべての磁石の種(1分子あたり1個のスピン)が同じ方向に揃った理想的な強磁性秩序であることが証明された。これまで高圧力下での結晶構造は,2GPa付近が強磁性配列にとって最適の分子積層構造を取ることが分かっており,今回の結果と整合するという。
研究グループは,今回の研究で得られた知見は有機分子を用いた機能性材料開発にとって非常に有益であるということに留まらず,軽元素材料の潜在的可能性を再認識させるという意味で非常に大きなインパクトを与える成果としている。