矢野経済研究所は,国内における完全人工光型植物工場市場を調査し,現況,参入企業の動向および将来展望を明らかにした(ニュースリリース)。
それによると,国内の完全人工光型植物工場での生産品種は現在,重量の出やすいフリルレタス,比較的光量が少なくても育つアイスプラントやグリーンリーフが中心となっている。
完全人工光型植物工場とは,光源に人工光を用い,空調と養液栽培を導入し植物の生育に必要な環境要素(光,温度,湿度,CO2ガス濃度など)を制御することで栽培する屋内施設。
2017年度における完全人工光型植物工場の運営市場規模(工場野菜生産者出荷金額ベース)は,前年度比111.0%の54億3,400万円であった。2018年度は,前年度比109.8%の59億6,900万円を予測する。
近年の異常気象により,露地野菜の調達相場が乱高下するなか,植物工場野菜の需要分野は様々な業種に拡大しつつあり,なかでもスーパーの市販向け商材やコンビニエンスストア,外食,中食(惣菜)といった業務用途での需要が拡大している。
スーパーでは安定供給ほか,雑菌が少なく日持ちする点が評価されている。来店客向けに植物工場野菜の試食販売やファミリー層を対象とした店内料理体験は,売場の活性化や差別化にも繋がるなど店舗運営上の販売促進にも貢献している。
また,コンビニエンスストア,外食,中食(惣菜)などの業務用途では,形状の統一性や見た目のよさ,洗浄にかかる手間を軽減できる点が評価され,中食のカット野菜や生春巻き,外食チェーンのサラダや料理の付合せ,コンビニエンスストアのサンドイッチなどで需要が拡大している。
完全人工光型植物工場事業にはかつて,多くの農業ベンチャーが参入したが,採算に見合うビジネスモデルが構築できずに撤退が相次いだ。しかし現在は,省エネルギーを実現するLEDの低価格化が進みランニングコストが抑えられたことで,採算が改善している。
また,植物の生育状況を測定する高機能センサーや人工知能の実装も可能になるなど,生産技術が低価格化したことにより,周年・計画生産を可能にする植物工場はあらためて注目を集めている。
2016年度までは,全体的にリーフレタス換算で日産5千株以下の栽培能力を持つ植物工場の建設が中心であり,なかには1千株以下もみられるなど比較的,中・小規模の工場が普及した。
2017年度あたりから1工場あたりの生産設備が大規模化しており,日産2万株を超える植物工場もみられるようになるなど,施設の大型化が進み,こうしたことが建設工事(建屋+屋内関連資材等)の市場規模を押上げている。
2017年度の完全人工光型植物工場の建設工事市場規模(累計金額ベース)は,前年度比127.2%の487億5,800万円であった。2018年度は,前年度比124.6%の607億3,600万円を予測する。こうした生産技術の向上や植物工場野菜の需要拡大により,2022年度には1,734億5,800万円を予測する。
今後は,栽培品種の拡大やコンビニエンスストア,外食,中食(惣菜)など業務用需要を反映した商品展開が推測される。中期的には,ケールやほうれん草,ラディッシュ,ハーブなどへの多品種化,長期的には,食味や香りの向上,高機能性野菜・薬用植物の普及が見込まれるという。
こうしたなか2018年度以降,完全人工光型植物工場の運営市場規模(工場野菜生産者出荷金額ベース)は,前年度比130~160%での成長を見込み,2022年度には277億円を予測するとしている。