新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO),人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem),東京大学は,太陽電池材料として知られるCIGSをベースとした光触媒で,非単結晶光触媒の中で世界最高の水素生成エネルギー変換効率12.5%を達成した(ニュースリリース)。
太陽光の強度のピークのある可視光領域(400nm~800nm)の光を吸収する光触媒ができれば,効率よく太陽光のエネルギーを利用できる。しかし,従来の光触媒は,吸収波長が主として紫外光領域(~400nm)に限られるものが多く,光触媒の吸収波長を長波長化することが課題の一つだった。
このため,プロジェクトでは従来よりも長波長の光を吸収する光触媒材料の一つとして,カルコゲナイド系材料の開発を進めてた。中でもCu(In1-x,Gax)Se2(以下,CIGS)は赤外領域までの太陽光(xの組成比により750nm~1230nmまで変化)を利用できるという特長を持ち,既に太陽電池材料としてメートルスケールの製造技術が確立されている。
このCIGSはp型半導体であり,その表面にn型半導体を成膜しpn接合を構成することで,光照射によりCIGS固体内で生成した電子と正孔を効率的に分離し,再結合を抑制させることで高い量子効率を得られる。研究では以下の2つの工夫により,CIGS中で光照射により生じた電子を用いて,水から高効率で水素を生成させることに成功した。
1)高負荷条件ではCIGSとn型半導体の間の障壁が原因で電子が注入されにくくなり,結果的に効率が顕著に低下していた。今回,新規組成のCIGSを開発することにより障壁の問題を解消,世界最高性能の水素生成反応を達成した。
2)大電流密度で水分解反応を進行すると,液相側の電気抵抗をはじめとした効率低下要因が顕在化してくる。今回電解液の成分等を最適化することにより効率的に水素が得られるようになった。
これらにより,水素生成エネルギー変換効率は,最大で12.5%を達成した。この変換効率は,非単結晶の水素生成光触媒の中で世界最高となる。
今回開発したCIGSをベースとした水素生成光触媒と,従来のBiVO4からなる酸素生成光触媒を用いてタンデム配置した2段型セルを組み立て,疑似太陽光における水の全分解反応を検討した。その結果,太陽光エネルギー変換効率は3.7%を達成。この値は2016年に公表した太陽光エネルギー変換効率の23%増しに相当するという。
研究グループは今後,高性能な酸素生成光触媒を開発し,今回得られた水素生成光触媒と組み合わせることで,2021年度末を目標に太陽光エネルギー変換効率10%の達成を目指す。