物質・材料研究機構 (NIMS) は,2種類の異なる有機トランジスタを組み合わせることで,3つの値をスイッチできる多値論理演算回路の開発に成功した(ニュースリリース)。
軽くて柔らかい有機材料を使った電子素子は,印刷技術を使って大面積の素子を製造でき,持ち運びもしやすいことから,直接身につけて汗や心拍数をモニターするデバイスが開発されている。さらに,IoT社会における大量のデータ処理や高速通信に対応するため,有機トランジスタの飛躍的な特性向上が望まれている。
しかし有機材料にはこれまでの半導体デバイス開発で養われてきた微細加工技術が適用できず,素子の微細化や高集積化ができないため,高性能化を図るためには従来とは異なる手法を確立しなければならない。
そこで研究グループは,ゲート電圧を一定以上に増加させるとドレイン電流が減少するという特殊なトランジスタ (アンチ・アンバイポーラートランジスタ) を,通常のトランジスタと組み合わせた素子を開発した。
ゲート電圧が低いときにはアンチ・アンバイポーラートランジスタに多くの電流が流れる。そこから徐々にゲート電圧が増加すると,二つのトランジスタに同程度の電流値が流れる電圧範囲が現れる。さらにゲート電圧を上げると,アンチ・アンバイポーラートランジスタに流れる電流が減少するため,電流値の大小が逆転する。
今回開発した独自の素子構造では,このように異なる電流特性を示す2種類のトランジスタを組み合わせることで,3つの値のスイッチングを実現できた。これにより複数の出力値を制御する多値論理演算回路の開発も可能になる。これを応用すれば,たとえひとつのトランジスタのサイズは同じでも,集積度とデータ処理能力を大幅に向上させることができる。
今後はこの成果を応用し,これまで有機材料が苦手としてきた高集積化を克服し,柔らかさと高いデータ処理能力を兼ね備えた新しい有機トランジスタの開発を進めるとしている。