理研ら,スキルミオン結晶の崩壊と再結晶化を直接観察

理化学研究所,東京大学らの共同研究グループは,直径約1万分の1ミリサイズの磁気渦「スキルミオン」の熱力学的非平衡状態を,ローレンツ電子顕微鏡を用いて直接観察することに成功した(ニュースリリース)。

次世代の低消費電力・高密度・不揮発性メモリ素子の担体の一つとして,ナノスケールの電子スピンの渦である「スキルミオン」が期待されている。スキルミオンは,直径100nm以下と非常に小さく,トポロジカル粒子として特徴づけられるため,一度生成すると準安定状態のナノ粒子として,長い寿命を持つなど優れた特性を備えている。

これまでの研究から,スキルミオンの六方晶系である「スキルミオン結晶(SkX)」はらせん磁気秩序温度(TC;5℃)直下の狭い温度範囲内において,外部磁場を加えることで形成されることが分かっている。このSkXは熱力学的平衡状態にあり,非常に安定している。一方,TCより低い温度領域では,無磁場の場合は安定したらせん磁気構造となるが,外部磁場を加えると,コニカル(円錐)磁気構造が安定するため,SkXが生成することは難しい。

磁気メモリ素子としての応用に向けては,広い温度・磁場範囲内におけるSkXの生成が望まれる。理研は2016年に,バルク状らせん磁性体内で熱力学的平衡状態にあるSkXを,磁場中で室温から極低温2K(-271℃)まで急冷し凍結させることに成功している。しかし,凍結されたSkXの安定性やさまざまな熱力学的非平衡現象については,よく分かっていなかった。

今回,共同研究グループはまず,らせん磁性体である鉄ゲルマニウム(FeGe)の薄片に外部磁場を加えながら,室温(27℃)から極低温(-267℃)まで急冷することで,スキルミオン結晶(六方晶系)を凍結させ,非平衡状態にした。

凍結されたスキルミオン結晶は非常に安定で,外部磁場をゼロにしても六方晶系の形を保った。この結晶に外部磁場を加えたところ,一部のスキルミオンが蒸発し,結晶中にランダムな欠陥ができた。

さらに,磁場を強めるとやがてスキミルオンはばらばらになり,結晶は崩壊した。また,磁場を弱めると,ばらばらだった孤立スキルミオンは再結晶化され,スキルミオン結晶とコニカル磁気構造の混在構造に変化することが分かった。

この研究成果は,次世代スピントロニクスの一つ,スキルミオンを用いた低消費電力の磁気メモリ素子などの実現に寄与するとしている。

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