京大ら,テラヘルツとスピンの結合で巨大スピン観測

京都大学,東京大学,千葉大学,東京工業大学は,入射するテラヘルツ磁場強度を物質内部で約200倍増強させる技術を開発してスピンを大振幅で励起し,スピン運動の非線形性の観測に成功した(ニュースリリース)。

スピントロニクス材料としてこれまで広く利用されている強磁性体はGHz帯域で動作し,テラヘルツ帯周波数には応答できない。一方で,希土類フェライトに代表される反強磁性体はそのスピン集団運動モード(反強磁性共鳴)がテラヘルツ帯域に達し,反強磁性体はその磁気特性がテラヘルツ波における超高周波に対しても応答できる。漏れ磁場が少なく素子の集積化に適した材料としても注目されている。また,高強度テラヘルツ波で磁性体を駆動すると如何なる非線形非平衡現象が発現可能か,という問いも未解明だった。

研究では,これまでに実現した世界最高強度のテラヘルツ発生技術と新たに考案した螺旋状のメタマテリアル金属マイクロ共振器を融合することにより,最大2.1テスラの高強度テラヘルツ磁場パルスを反強磁性体の一種であるHoFeO3内部に発生できる技術を考案した。

生成した磁場パルスは,HoFeO3の鉄イオンが担うスピンに力を及ぼし,スピンと電荷(軌道)やフォノンとの結合を必要とすることなく直接スピン歳差運動を誘起できる。駆動されるスピン運動は,一般に巨視的磁化(秩序変数)の変化として記述され,また光の偏光の変化(ファラデー回転信号)として観測できる。

今回,励起に用いるテラヘルツ磁場強度が増加するにつれて,ファラデー回転信号の波形が非対称で歪んだ形状になることを観測した。これは,隣り合うスピンの和として記述される強磁性ベクトルMだけでなく,これまでの弱強度励起の実験では無視されてきた,スピンの差として表される反強磁性ベクトルLによってもたらされることを明らかにした。

さらに,ファラデー回転信号の周波数スペクトルには,強磁性ベクトルMの基準振動に対し2倍,3倍の周波数に対応する非線形な振動を意味する明瞭なピーク構造が含まれることがわかった。今回,3倍波の非線形信号を観測できたことにより,強磁性ベクトルMの振動の非線形性が初めて明らかとなった。

また,反転対称性の破れたスピン系の磁気秩序と対応する系のエネルギーが高周波成分発生の選択則を決定することを理論的に示した。
 
今回開発した高効率にテラヘルツ波を捕集し巨大な磁化変化を誘起する方法について研究グループは,スピンダイナミクスの理解を深め,超高速な磁化スイッチ,テラヘルツ波/スピン変換機など,超高速スピントロニクス技術へ応用されることが期待されるとしている。
 

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