東大ら,新たな巨大スピン流発生材料の開発に知見

東京大学とJSRは,大きなスピンホール効果を示す直方晶タングステンを予測し,そのうちのひとつである直方晶構造が,スピンホール効果が巨大スピン流の発生が観測されているβ相の1.2倍に増大することを予測した(ニュースリリース)。

固体中の電荷に加えて電子のスピンの自由度を積極的に利用することで新機能性デバイスの実現を目指すスピントロニクスの研究分野では,上向きスピンと下向きスピンとが互いに逆方向に流れる「スピン流」を理解し,制御することが重要となる。

スピン流は,電流におけるオームの法則に相当する散逸機構が無く,量子力学的重ね合わせ状態の生成が容易であることからエネルギーロスの無い情報伝送や量子情報伝送が実現できるため,その生成・検出・制御に関する数多くの研究がなされている。

また,スピン流を磁性体に流すと,その磁化の向きを制御できることが明らかになっており,磁気メモリへの応用が期待されている。そのため,電気的手段でスピン流を生成する「スピンホール効果」を利用したアプローチが注目されている。

新規スピン流発生材料の発見を目指して,研究では,低価格で,且つ巨大スピンホール効果を示すタングステンに注目した。タングステンは最安定な体心立方構造(α相)と準安定なA15型構造(β相)が薄膜で得られており,β相は単体では最大級のスピン流を生み出すことが知られている。

研究グループは,進化的アルゴリズムと第一原理電子状態計算を組み合わせた結晶構造探索手法をタングステンに適用させて,新たに15種類の準安定構造を発見した。確立された理論モデルを用いてスピンホール効果の大きさを調べた結果,直方晶構造で大きなスピンホール効果が得られることを見出した。

これはα相の体心立方構造が螺旋変形した構造となっており,スピンホール効果はα相よりも2倍大きく,また,巨大スピン流の発生が観測されているβ相よりも1.2倍大きくなる。同様の効果がモリブデンやタンタルなど,他の重金属でも起きることがわかり,螺旋変形した構造が大きなスピンホール効果を誘起することがわかった。

この研究は,進化的アルゴリズムを援用したスピン流発生材料の探索のモデルケースとなる。原子層ごとに薄膜を積層して人工物質を作り出す現代の成膜技術を利用すれば,準安定な構造を安定化できることが知られている。

研究グループは,進化的アルゴリズムによる結晶構造探索,第一原理計算と理論モデルを用いたスピンホール効果の計算を組み合わせることで,革新的なスピン流発生材料の開発にもつながるとしている。

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