豊橋技術科学大学と東京大学,慶應義塾大学の研究グループは,目の前の手袋と靴下が自分の手足の運動と同期して動くことで,そこに透明な身体が補間されて見え,それがまるで自分の身体であるかのように感じること(身体所有感の錯覚)を示した(ニュースリリース)。
研究グループは,身体運動に注目して,透明な身体に所有感を感じる新しい方法を開発。実験参加者に ヘッドマウントディスプレイを装着してもらい,2m 前方に手袋と靴下だけを提示した。実験には20人の大学生,大学院生が参加した。
彼らは,自分の身体運動と同期して手袋と靴下が動いて見える条件と,非同期に関係なく動く条件を各 2回,5分ずつ体験したのち,それぞれについて質問紙に答えた。その結果,身体運動と同期して動く手袋と靴下の間に透明な身体があるように知覚され,それが自分の身体と感回答が,非同期条件よりも有意に高くなった。つまり,同期条件では,自分の透明な身体が2m先にあるかのように知覚された。
次の実験では,透明身体と全身アバタとの比較が行なわれ,そこには有意な差は見られなかった。最後の実験では,2m前の透明身体への所有感の錯覚を感じている際には,自分の居る場所が前方(透明身体のある方向)にずれて知覚されることが行動計測により示された。
この方法を用いると,他人が行なっている複雑な技能や動作を全身あるいは手足のみで提示し,それに自分の透明な身体を重ねてまねることで学習することが可能となる。透明な身体は対象を遮蔽しないので,他人の運動や操作対象を見ながらそこに自分の身体をおくことができ,技能伝承や動作学習を促進する可能性がある。
人のコミュニケーションは身体動作や外見に影響を受ける。この研究は,人が自由な身体を手に入れるような未来社会において,コミュニケーションがどう変わるのか,身体から自由になったコミュニケーションはどういうものになるのかを考えるきっかけとなるとしている。